エトワールの木漏れ日

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SF時代活劇『虹色とうがらし』観劇備忘録

SF時代活劇『虹色とうがらし』観劇備忘録

 

9/1(水)14時公演/18:30公演 観劇させていただきました。

 

 

 


【全体の感想】

劇場に入ってまず目に飛び込んだのが七色の大きな舞台セット。14時公演は最前列ということもあり、その迫力たるや圧巻。「あうるすぽっとの舞台ってこんなに広かったっけ!?」という衝撃を受けました。
私が座ったのが最前列やや上手ということもあり、虹上部でのお芝居で(冒頭菜種が目覚める場面や、秋光と彦六の会話シーンなど)下半身が見切れてしまうという難点もありましたが。それを含めてもなお役者さんたちの迫力のある殺陣とアクロバットを最大限に活かす作りで見応えがありました!

そして物語冒頭。七味と彦六さんとの会話。
原作「ましてや、第一巻第一話、作者の都合も考えろ」
舞台「ましてや開演してたったの五分。演出の都合も考えろ」
この読者、観客を意識したメタ発言に「そうそうそう!これこれこれ!」と原作そのままの空気感に嬉しくなりました。

ストーリーも原作のエピソードをただまとめるだけでなく。科学の力による恩恵と代償、家族の絆といった原作のメッセージを尊重したオリジナル展開と登場人物の掘り下げが上手く。原作では七味のみの大立ち回りが、舞台版ではラストにかけて兄弟に絵美ちゃんや琴姫まで参戦し一丸となって戦うという熱い展開に盛り上がりと没入感が素晴らしかったです!

 


【印象に残った登場人物、役者さんについて】

七味役/長江崚行さん

もう完全に存在が七味でした。
私がまず心をぐっと掴まれたが、ネズミに驚いた菜種に抱きつかれ肩を抱き発した一言。
「妹よ…」
このたった一言の“間”と“発し方”が完全に「飄々としてちょっと抜けたあだち充作品の主人公」という私の抱くイメージそのままだったのです。

そしてさらに。七味と陳皮が山を登る場面。ある種漫画特有の描写であるあの歩き方を完全再現されていたことに感銘!「いる!漫画の七味がそのまま目の前にいる!!」と内心大興奮するほど嬉しくなってしまいました。本当に原作へのリスペクトが素晴らしく「七味」という存在を完全に自分のものとしていらして、シンプルに「芝居の上手い役者さんなのだろうな」という印象を抱きました。

 

 

半蔵役/松原凛さん

クロバットが本当に凄くてまさに現代の忍者!ヒロステの常闇くんでまたあの身体能力を堪能できると思うととても嬉しいです!
私の原作での推しキャラは半蔵さんでして。実はビジュアルを見たときに戸惑いました。「原作ではどちらかといえば三枚目の半蔵が……イケメン!?」と 笑
だからこそ楽しみでもありました。原作通り少しヌケタ感じも出してギャップで魅せてくるのかな?それとも原作とはガラッと印象を変えてくるのかな?と。
そして松原さんの半蔵は、硬派で仕事人。けれど七人兄弟たちへの眼差しの温かさを感じさせる舞台版ならではの半蔵で魅力的でした。

ここから少し(?)原作の半蔵語りになるのですが。私、原作で半蔵が死んだとき本当にショックだったのです。
え?え??あだち先生……嘘ですよね!?
と。原作で『バクチの才能の巻』というエピソードがあるのですが。ざっくり説明するとバクチ好きの男が全財産を使い果たし川に身投げしようとしているところに六人兄弟たちが通りかかるがスルー。「理由くらき聞いてくれ」という男。かくかくしかじかあって金を取り返してやり改心した……と思いきや。
翌朝。
兄弟たちの渡った川の橋に「わらじ」だけが残されているコマでこのエピソードは終了。
私。このエピソードを読んだとき本気でゾクッとしたのです。あだち先生…こんなお話も描かれるのか…と。
ところがどっこい次の海のエピソードでこのバクチ男。「いやァ、なかなかおぼれないもんですねェ」なんて川に飛び込んで泳いでいるうち流れ着いたと再登場。
いや生きとったんかーーーい!先生!あだち先生!!私の本気の「ゾクッ」を返して!?なんてことがあったものですから……

ええ。半蔵も生きているのでは?と祈るように期待してページを捲り続けましたとも。……生きてなかったぁ……。
そしてですね。私半蔵の何が好きって。原作だと山椒ちゃんに密かに忍者修行の稽古をつけていて「おじちゃんのことはみんなには絶対内緒だよ」なんて交流しているんですよ!!
舞台版では直接的にその場面の描写はなかったのですが。菜種の実家の火事の場面で山椒だけが半蔵の存在に気づいて指をさし、半蔵は「しーっ」というジェスチャーをしていて……二人の関係が少しだけ垣間見えてちょっと泣きそうになりました。

山椒の年齢は3歳〜5歳。加えて立場上、兄弟たちと直接的交流もほとんどなかったことから「あんな人いたよね」なんて話題にも上がらないでしょうから、きっと山椒ちゃんは半蔵のことを朧げにしか覚えていないと思うのですよ。
それはきっと忍びとしては正しい在り方で。でも切なくて。山椒の忍びとしての技術の中に彼が生き続けるかもしれない。でもきっと半蔵はそんなことよりも、兄弟たちが平和に暮らしていくことを願っていたのでしょうね。

という巨大感情を半蔵に抱いていたものですから!!カーテンコールで半蔵と山椒ちゃんが並んで目を見合わせてにこにこ笑っている光景!そして松原さんや虹色とうがらし公式Twitterで二人のお写真が上がるたびに!そのあまりの尊さに心で爆ぜておりました。
ありがとうございます!舞台版虹色とうがらし!!

 

 

山椒役/岡田悠李さん

私は涙腺が弱いので基本的に観劇の際はあらかじ膝にハンカチを置いているのですが。今回はコメディであり、原作も読破済みということで完全に油断しておりました。
14時公演の岡田悠李さんの回が初見だったこともあり。この小さな名女優に泣かされました。
母親の墓前でなお無邪気な笑顔の「おかあちゃん!おかあちゃん!」からの菜種に抱きしめられ母親を求めるように甘える「おかあちゃん…」。
今これを書いているだけでもあの場面の声と情景がリアルによみがえり込み上げるものがあります。子どもだから涙を誘いやすい。それもあるでしょう。しかし私の胸に深い感情の揺さぶりを起こし、鮮明によみがえるほどの記憶を残したのは岡田悠李さんのお芝居です。ありがとう。

 

 

山椒役/猪股怜生さん

そして18:30公演の猪股怜生さん回ではちょっとしたトラブルがありました。鎖を振り回して七味を挑発した後、下手側で側転をする場面。この時に手を鎖の上に着いてしまいバランスを崩して倒れてしまったのです。一瞬ヒヤッとしましたが、すぐに立ち上がり芝居の流れに戻った姿が、「子どもでも確かに“役者”である」と芝居を支える一員としての頼もしさを感じました。

 

 

菜種役/伊波杏樹さん

伊波さんのお芝居といえば、演じた人物の本音の吐露といった繊細な場面での表現力が一級品。今回のコメディ作品のなかでもそういった情緒を揺らす場面を任され、しっかりと物語の転換となる菜種の心情の変化が伝わってまいりました。

・菜種が血の繋がった兄弟ではないと判明した後の「やっぱり、やだな」の涙混じりの声から伝わる強がりな菜種にとって、どれほど兄弟たちの存在が大きく大切であるか。

・七味が絵美に兄弟たちを紹介する「全員兄弟だよ」の言葉に浮かべる複雑な表情。

・七味と絵美の相合傘を見つけたときの「ヒューヒュー」という口ではいつものからかいの言葉を発しながら、そこにはどこか力がなく。七味への想いが手に持つ相合傘のボードで見え隠れする表情。(ここの“想いの見え隠れ”と“表情の見え隠れ”の演出天才かと思いました!!)

・そして絵美に告げる本音。「私も七味ちゃんのことが好きなの。それでも優しくしてくれる?」ここの同じ人を好きになった絵美にだからこそ見せる菜種の素直な顔。
この菜種の一番素直な気持ちを真っ直ぐに絵美ちゃんにぶつけたからこそ、絵美ちゃんも七味の背中を押せたと思うのです。
「菜種ちゃんに怪我でもさせたら、私が許さないわよ!」という台詞は、絵美ちゃん自身の恋心への決着であり。「それでも優しくするわ」という菜種への答えでもあったと思うのです。(絵美ちゃんがいい女すぎて辛い…好き)
という大切な場面に繋がっていくやり取りなものですから、私は菜種と絵美ちゃんの会話の場面が一番好きです!

また今回は山椒ちゃんという存在のおかげか、伊波さんご本人の人柄が滲み出るようなお芝居も見受けられて新鮮でした。ラジオでの親戚のお子さんとのやり取りのお話や、イベント等でのお子さんへのリアクションなど。伊波さんの子ども好きはこれまでも伝わっていました。そういった面が元気な山椒ちゃんとの何気ないやり取り。
そしてお墓参りで山椒に「おかあちゃん…」と抱きつかれたときの「山椒。お母さんにただいましよ」の声はもちろんのこと。注目してほしいのが手の動き。ただ抱きしめるだけでなく背中を優しくさすり、ぽんぽんとあやす仕草。これはこの舞台でしか見ることのできない“母性”を感じさせる場面だったと思います。
「役者とは人生」と語った伊波さんなので、今後年齢を重ねてこういった場面も多く見られるようになるかもしれません。しかし20代の伊波さんが発する初々しい母性を目の当たりにできたことが嬉しく。一人の役者さんを応援し続ける醍醐味を味わわせていただきました。

また、山椒役/猪股怜生さんの項で触れましたアクシデントの際。彼がバランスを崩した瞬間に一歩踏み出しかけた伊波さんでしたが。彼が立ち上がるや否や踏みとどまり「まったくヤンチャなんだから」というような菜種お姉ちゃんの表情で芝居に繋げていらしたことをここに記しておきます。

 

 

絵美役/聖山倫加さん

今回の脚本で一番登場人物の掘り下げが上手いなぁと感じたのが絵美ちゃんです。原作では菜種を助けに行く七味の背中を見送ることしかできなかった彼女が、舞台版では「俺のせいで…菜種が」と動揺する七味を叱咤し背中を押して自分の鉢巻を託す。
原作でも印象的な七味の鉢巻を「こう料理してくるか!!」と上手さに唸らせられました。
伊波さんの項でも書きましたが。菜種に贈ろうとした「反物」に象徴された想いにけじめをつけ、「それでも優しくするわ」という絵美ちゃんの答えがあの「鉢巻」には込められていたと思います。
ああもう!本当にいい女!ですよね!!!

そして戦う女性の美しさ。髪をかき上げる仕草はもちろんのこと。聖山さんのアクロバットには女性ならではのしなやかさと華やかさがあって、まさに村の「花形」という説得力がありました!

 

 

秋光役/松田賢二さん

もう一人、人物の掘り下げの上手さを感じたのが江戸城の将軍秋光です。
彼は原作でも刀を構えたるとき、決して刃の向きを相手に向けることはありません。これは彼が圧倒的強者であり、決して人を殺さないという人格を象徴している一コマです。
舞台版でもそれはきちんと再現されており。また原作では蜂に刺されて死んでしまう弟貴光との和解というオリジナル展開で彼の懐の深さと。あったかもしれない原作とは違う“まだ見ぬ未来”を感じられて良かったです。
仮面ライダーネタはやはり円盤収録と配信では厳しかったようですね 笑 毎回将軍様のチャーミングさに笑わせていただきました!)

 

 

浮論役/沢村玲さん

今回個人的に一番、原作付き作品の舞台化の醍醐味を味わわせてくださったのが浮論役の沢村玲さんです。
浮論という男の解釈が深まり、もう一度原作を読み返したい!と思わせてくださいました。というのも沢村さんの浮論からは序盤からストレートに菜種に対する“優しさ”を感じられたのです。
一言で語ることの難しい男の像が場面ごとに優しさとして積み重ねられ輪郭がはっきりしていく過程。それは菜種の夢に出てくる朧げな男の子の記憶ともリンクしており、そこの演出が上手いなと感じました。
そして最後に記憶と重なる「達者で暮らせ、菜種」の声の優しさ。あれは沢村さんが持っていらっしゃるものなのだろうなと感じたのが、カーテンコールでの笑顔です。
あのカーテンコールでの笑顔は本来の沢村さんのお人柄なのだと思うのですが、あの笑顔が「哀しい事故が起こらず成長した浮論」を思わせて込み上げるものがありました。

あと私、殺陣未経験者の方の殺陣を見るのが好きでして。もちろん全員ではないのですが公演期間中での著しい成長過程を見るのが好きなのです。私が観劇したのは中日だったわけですが、そこからも千穐楽の配信で強者の優雅さを感じられるようになっていてわくわくしました。全員が全員そういった成長を見られるわけではなく努力あってのことだと思うので、浮論を演じられた方が努力のお人で嬉しかったです。

 


赤丸役/藤木陽一さん

七味同様、原作から飛び出してきたかと思いました!!そして場の掻き回し方が本当に上手い!!!
「山椒の墓参り」と「半蔵の死」という泣けるシーンのしんみりとした空気を一瞬で吹き飛ばす余韻クラッシャー!なのに不思議とイラっとはしない。その匙加減が本当に上手い。「うるさいぞ!赤丸ー!!」なんて安心して気持ちを切り替えられる作品における頼もしさがありました。
また日替わりネタであるところのグッズ紹介コーナーでは、ランダムブロマイドについて
「お願いですから貴光様を交換に出さないでください!トレードするときは“仕方なく!”譲りたくないけど“仕方なく!”出してくださいね!!」
パンフレットについてはまさかの貴光様のページの触りを朗読。
「『暑い日が続きますが〜私は水分を摂りすぎて顎が二重になりました』残念ながら今日は雨なんですね。見通しが甘いですね。しかも貴光様の背景“曇天”なんですよね!!」
「掴みを話すんじゃないよ!」
面白すぎて拍手まで起きてましたよ 笑

 

 

琴姫役のトミタ栞さんも私のイメージしていた通りの琴姫の喋り方で嬉しかったなぁ。
麻次郎役の荒井敦史さんはもう声が麻様のイメージそのまま!
胡麻役の桂鷹治さんは稽古期間から毎日ブログを更新してくださり座組みの皆さんの雰囲気を知ることができて嬉しかったです!

全員に触れることができなくて申し訳ないのですが、Twitter等でお見かけした写真からも伝わる座組みの雰囲気そのままに、心温まる舞台でした。
ありがとうございました!