エトワールの木漏れ日

舞台、ライブ、イベントなどの備忘録

岩崎大20周年企画公演『bastidores-楽屋-』観劇備忘録

 
 3月29日(木)マチネ(昼公演)を観劇させていただきました。
 記憶とその時味わった感情をリンクさせるため、毎回観劇備忘録を残すときは劇場の雰囲気から記したいと思っています。そして前回の『MONSTER LIVE』のときには、もうこれ以上に役者さんを近くに感じられる機会はないだろうな……なんて思っていたのですが。ありましたね 笑

 

 

【劇場について】

 住宅街にそっと溶け込む劇場。周囲を散策すると舞い散る白に目を奪われました。吸い寄せられるように歩みを進めると、そこは満開の桜並木。トラックが走り去れば、降り注ぐ桜と舞い上がる花びらとが相まって踊るような桜吹雪を残してくれた。一年前の情景が瞼で重なり、そっと頬が緩むのを感じました。

「整理番号10番までの方~。劇場にお進みください」
 私はほぼ最終番台だったため、ゆっくりと順番を待っていました。
 番号が呼ばれ、まずは番号順に列形成。ひとりひとりリストと照合する身分証の確認を経て、いよいよ劇場へ。

 建物に入り、左へ曲がるとそこには黒のカーテンにより中央で左右に仕切られた階段。そこが劇場への入口。
 (後に。この仕切られた階段の舞台寄り側が公演のなかで役者さんたちが上ったり降りたり、手すりにもたれたり、座り込んだり。物語の一部として使われることを このときの私はまだ知りませんでした。)

 階下へ歩みを進めると すでにそこは人で埋め尽くされていました。
 場所を調べるため劇場である「ウエストエンドスタジオ」のサイトはあらかじめ確認し、劇場内の写真も見ていました。
「座席の段数4段…?いやいや さすがにもっとパイプ椅子とか増やして10列くらいにはなるんでしょ?」なんて思っていた時期が私にもありました。
 たしかにパイプ椅子は設置されていました。上手に2列。下手に4列(?)。

 横:約15席
 列:上手側6列、下手側8列(?)

 最大120席という情報も納得。
 自由席ということもあり、空いている席を見つけ出すためにしばし呆然と客席を見上げ、ようやく見つけたのが最後列上手寄りの席。段を上がるごとにギシギシと揺れる足元が劇場の歴史を感じさせました。意外にも柔らかなクッションに腰を落ち着け視線を舞台の方へ。
 近い。最後列なのに近い。
 オーケストラボックスのあるような大きな劇場だったら最前列くらいの距離感。(もう少し身近な例えをしますと、教室で6列目くらいから先生を見る感じです)これが小劇場の魅力のひとつですね。


 さて。私は最後の方の入場だったため、残念ながら役者さんたちによる物販の説明はほとんど聞くことができなませんでした。無念。
 座席のチラシにざっと目を通していると、29日マチネ(昼公演)のゲストである かかずゆみさんによるユーモアとアドリブ溢れるアナウンスが始まりました。スマホの電源を落とし準備は万端。


 『bastidores-楽屋-』開演。


 今回の舞台は三人の脚本家による三作品のオムニバス。作品ごとの導入を日替りゲストの役者さんが語り部となって物語へと誘います。
 椅子に座り、ページをめくる穏やかな語り口。自身の実際に経験したエピソードを交えてのアドリブ。
「この二つは実体験です」
 このたった一言で客席をどっと笑いで満たす確かな技術。
 笑いであたたまった空気のなか、物語は始まります。

 


【あらすじ】

episode.1『四文字の嘘』
 新聞の劇評に酷評されたことから、ラストシーンを変えて斬新な演出を見せつけたい演出家。
 離婚によりまだ幼い頃に離れ離れになった娘が初めて自分の舞台を見に来るので格好いい所を見せたい主演俳優。
 ラストシーンを変更するか否かで対立した二人。このままでは幕が上げられない。二人を説得するため、周囲を巻き込んだドタバタ劇が繰り広げられる。

 個人的に私はこのお話が一番好きでした。嘘、誤解、勘違い、行き違い。登場人物たちそれぞれの思惑が絡んでスピーディーに展開していくのが面白かったです。
 とくに舞台の上下左右を大きく使い、対立する二人がかわるがわる顔を覗かせるシーン。状況が悪化し絡まっていく様が分かりやすく、なんといっても園崎未恵さん演じる演出家戸田の表情の変化の豊かさに一番笑わされました。

 

episode.2『劇場には・・・』
 劇場ではしばしば不思議なことが起こる。目に見えない不思議な力。その正体は幽霊?これは楽屋で起こった不思議な出来事のお話。
 このepisodeについては後で詳しく語りたいと思います。

 

episode.3『覆水ボンド』
 開演直前の楽屋で起こる様々なトラブル。役者、スタッフたちはどうやってこの危機を乗り越えるのか!?
 このepisodeでは物語だけではないハラハラ感を味わえる演出になっていました。「え?え?本当に間に合うの!?」という役者さんたちと同じ一体感。これはあのサイズの劇場だからこそ伝わる臨場感だったと思います。

 


伊波杏樹さんの見所】

 ここからは本公演で、私が抱いた伊波さんの見所について語りたいと思います。
 今回の舞台では当て書きか?と思えてしまうほど、伊波さんの持ち味や引き出しが活かされていたように感じます。(パンフレット黒の座談会によると当て書きではないようです。)
・可愛さ=言うまでもなく
・中上段突きからの横蹴り=空手道
・側転=身体能力
・コメディセンス=とくにコメディは本当に難しいです。狙って安定した笑いを取る技術。
 普段のトークからも感じますが、伊波さんは本当に間を取るのが上手い。スクフェスの千歌ちゃんの言い回しで くすっと笑ってしまったことは一度や二度ではありません。お笑い好きの伊波さんだからこその持ち味で武器だと思います。


〈episode.1〉
 伊波さんの役どころは演出助手。演出家からの推薦を得て海外留学をするために、どうしても公演を中止にしたくありません。そこで自分に気のある俳優仲間に甘えた声と態度でお願いをします。
 ぶりっ子モードでの豹変ぶりが面白かったです。あざとい。実にあざとい。だが可愛い! 甘えた声での「いっち~~~(ハート」が忘れられません 笑
 浦ラジでのお題の「ぶりっ子」がなぜか「ギャル」になってしまった人と同一人物とは思えないほどの見事な豹変ぶりでした。
 これまでAqoursの生放送等のコーナーで様々な「可愛い演技」を見せてくれた伊波さんですが。これは見たことのないタイプの「可愛い演技」で、引き出しが増えていることに驚かされました。


〈episode.2〉
 伊波さんの役は、とある理由で人間たちに不思議な力でイタズラをしてしまう女の子。
 天真爛漫で無邪気を絵に描いたような女の子です。5才くらいの女の子をイメージしたら分かりやすいと思います。
 少し舌足らずで幼い口調。
 トランプのババ抜きを見て「あ~このゲームわたしもしってるぅ~。ふふ~ん♪わたしが勝たせてあげるね!」といった感じ。
 感情も子どもそのもので、好きな曲を途中で止められてしまい「ああーっ!ここからがすきなのにぃー!!」とぷりぷりと頬っぺたを膨らませてイタズラを仕掛けたり。舌を出して あっかんべー をしたり。
 総じていうと「あんちゃん可愛い」もしくは「あ…天使がいる」の一言です。

 しかしである。これだけ可愛らしい姿で私たちを魅了しておきながら、やっていることは実はかなりハードだったりします。
 伊波さんの役は「人間」には見えていません。それを表現するために他の役者さんの動きをギリギリで避けたり華麗にかわしたり。机に飛び乗ったり。実に自然な流れでやってみせていましたが、実際あの動きは相当な練習とシャドウボクシングのような体力的負担があったはずです。
 リフト(抱き上げられての回転)も回す方の負担に目が行きがちですが(実際負担は大きいのですが)抱き上げられる方もタイミングを計る技術を要されます。
 事も無げに行われた側転も、あの狭い空間と動きっぱなしの体力を思うと実は凄いことをやってのけていることに気づかされます。

 これらの“凄いこと”を凄いこととして“感じさせない”伊波さんの表現しきった“可愛さ”。そこに私は伊波さんの「役者魂」を感じました。
 きっとAqoursでのライブ経験も生きているのでしょう。1stライブ、2ndライブを経た今の伊波杏樹さんの体力だからこそ表現しきった“可愛さ”だったのかもしれません。


〈episode.3〉
 劇場に響き渡る「開演◯分前です!」「全部私のせいです!すみませんでした!」
 一生懸命であるがゆえの面白さ。可愛さ。
 先のepisode.2でも伊波さんは動き回っていましたが、『覆水ボンド』では舞監役である伊波さんはとにかく階段の上り降りが多かった。本当に一公演で体重がごっそり落ちてしまうのではないかと心配になったほどです。

 しかし伊波さんの言葉はこうでした。
「確かに今回かなり
楽しんでカロリーを
マッハに消費してますね。笑」
 “楽しんで”その気持ちが伊波さんの内から溢れているからこそ、私たちはただ純粋に伊波さんの“可愛さ”に身を委ね魅了されることができたのでしょうね。

 


【岩崎大さんによせて】

 こんなにも可愛らしく舞台上で伊波さんが輝く機会をくださった岩崎大さん。
 私が岩崎大さんを舞台作品で拝見したことがあるのは『黒執事』のバルドロイ役。『裏切りは僕の名前を知っている』のカデンツァ役。そして伊波さんと共演された『JYUKAIDEN-桃源-』の蝠役。

 とくに印象に残っているのが二つの敵役です。
 カデンツァは嘲笑いながら命を奪うような悪魔役で、命をかけた戦いをゲームと称し心の底から楽しむ敵役。
 蝠は妖しく主人公を言葉巧みに陥れる鬼役で、人間への憎しみを内に宿した敵役。
 動と静。どちらも敵役でありながら異なる性質を表現されていたのが印象に残っています。(個人的に、刃を倒れた相手に突き付け見下ろしながらにじり寄る立ち姿。不適な笑みを浮かべる目が特に好きでした。)

 今回は打って変わってコメディということで、コミカルなお芝居の中にも頼りになる兄貴という雰囲気があり、本当の楽屋もこんな感じなのかな?なんて想像させてくださいました。
 岩崎さんは舞台の最後、袖にはける際に一礼をして胸の前で感謝をこめるように両手を組む姿をお見かけすることがあります。私はこの姿が好きで、今回終演後のグッズ販売でも気さくに話しかけたり、ひとりひとり丁寧に対応する姿にお人柄を感じて、じんと感動してしまいました。
 あらためて、20周年おめでとうございます。

 


【最後に】

 岩崎大さんはブログのなかで伊波さんに対して、こう語ってくださっています。

「舞台に対しての『やりたい熱っ‼︎』のすごい人で、今回お伺いしたら、スケジュールを空けてくれましたっ‼︎」

 伊波さんの“舞台への熱量の凄さ”が伝わってくる一文です。そしてそれが舞台関係者の方の目から見ても“すごい”ことが嬉しい。
 伊波さんの“凄さ”はまだまだ発展途上。次はどんなびっくりで私たちを驚かせてくれるのか! 一年後、五年後、十年後。その熱がどう伝わり、どう広がっているのか。楽しみにしつつ。受け取った熱を記憶と共に、ひとりでも多くの人に届けられたなら幸いです。