エトワールの木漏れ日

舞台、ライブ、イベントなどの備忘録

舞台『ブラックダイス』観劇備忘録

 

 

 【劇場】

 「あうるすぽっと」まず劇場の大きさの約300席という丁度よさ。スーパーダンガンロンパ2では箱も大きく出演者も多かったためマイクを通しての声でしたが、肉声が直接届くこの距離感は大変良かったです。また座席の前後も広くゆったりと観劇ができ落ち着いて楽しむことができました。

 さて、劇場内に入って目を引いたのが上手側に設置された舞台と客席とを渡す階段。「おや?これはもしや」と、降りてくるまではなくとも階段に座るくらいの演出はあるかもしれないと期待。すると雨音と雷鳴の後にライトに照らされる通路。そう、まさかの客席側からの主演伊波杏樹さんの登場。4回の観劇中1回は上手通路側だったためこれは予想外の嬉しいサプライズでした。

 そうそう。開演前のアナウンスも伊波さんでした(舞台にもよりますが劇場の方がアナウンスされることも多い)。主演だからこその特権。改めて「ああ、伊波さんが主演なんだ」ということを実感した瞬間でした。

 

【感想】


 ここから公演について。まずはツイッターでのネタバレを回避した感想がこちら。
ブラックダイス感想1
あらすじを読むと痛快な復讐劇か?と思わせられますがそれだけではない。笑いと人情。爽快なエンターテイメントがそこにはあった。主人公の衣装の変化にも注目して観てほしい。途中の衣装ももちろんですが、ラストシーンの伊波さんが本当に美しかった。

ブラックダイス感想2
役者さんのコミカルなお芝居もあって物語は実に軽快にテンポよく進む。ぐいぐいと引き込まれるというより、そのアットホームな雰囲気にいつの間にか物語の店「ブルジョーネ」の客としてそこに居たかのような感覚。それは座組の空気の良さが作り上げたものかもしれない。

ブラックダイス感想3
ダンディなおじ様たち。茶目っ気があって憎めない男性たち。「こんな子いるよね」「こういうことあるよね」と思わせてくれる女の子ならではの可愛らしさ。登場人物たちそれぞれに心の変化が見られサクセスストーリーがある。

ブラックダイス感想4
そんな彼ら一つ一つの人生に触れるため何度でも劇場に通いたくなる。そのくらい全員が魅力的で愛しく感じられる春風のような心地よさがある。大人ももう一度夢をみたくなる。そんな素敵な作品です。


 感想1で触れた主人公咲子(芽生)の衣装について。
・自分の人生を悲観した、黒のレインコート。
・詐欺師たちに巻き込まれた、黒のポロシャツの上に赤を主体とした色の入り交じったパーカー。
・戸惑いつつも「ブルジョーネ」で働くこととなり何かが変化し始める、グレーのパーカー。
・店での咲子を演じた、ブルーの色鮮やかなドレス。
・そうしてようやく辿り着いた、純白のワンピース。
 ラストシーン。真っ白な衣装で舞う桜と戯れる姿が、アヒルの子だった咲子(芽生)が白鳥になったことを象徴しているようで。本当に美しかった。


 咲子を不運の連鎖に縛っていたのは咲子自身の思い込みだった。もちろん、そのきっかけの大元を作ったのは父親だけれど、それを解放してくれたのもお父さん。
 初日は泣きこそはしなかったものの、二日目の観劇で父親が咲子が実の娘であると最初から察している前提で見るとまるで見え方が違いました。
・カウンターの下に隠れた咲子が見つかったときに人払いをしたのも彼女を庇うためだったのではないか?
・髪に触れたときに手を振り払われた後の複雑な表情。
・裏カジノでの最後の大勝負を吹っ掛けたのもお金を取り戻すためだけではなく。自分が嵌められたと気がついた社長が、父親としてこれ以上咲子(芽生)を詐欺師たちに利用されないよう、この手で守るために店の権利を差し出してまで「返してほしい」と提案したのではないか?
 そんなことを想像させてくれました。
 その積み重ねがあっての告白。謝罪。懺悔。和解。別離。一連の流れからの
「さよなら。さよなら……芽生!」
「さよなら。さよなら。さよならっ…お父さん!」
 ハッピーエンドだけでない一抹の切なさと爽やかな旅立ち。これが泣かずにいられましょうか。二回目はハンカチ必須でした。

 また、父親としてではなく社長としての姿も本当に格好良かった。最後の去り際。社員たちに「社長!」と呼び止められ、一瞬だけ歩みを止めるも振り返ることなく階段を登り去る、あの背中。あの男の背中に惚れました。
 終演後生写真を買い足そうと物販に向かったのですが、社長含めておじ様たちの生写真がないと気づいたときの絶望感……。パンフレットを大事に眺めさせていただきます。


 あと、やはり魅力的だったのが詐欺師二人の二面性の演技。客席の位置によっても見える表情、見えない表情があったと思うのですが。ブルジョーネの人々に見せる人当たりの良さそうな顔からの死角で咲子に見せる詐欺師としての不敵な表情。その移り変わりにぞくりとしました。

 


【ハプニングについて】


 生の舞台ではハプニングが付きもので、それがまた魅力の一つだったりします。

 咲子が投資家のお客様を接客した際、様々な不運が起こります。水を溢す。ライターで髪を焦がしてしまう。実はこのシーン、初日にはお酒の蓋を落としてしまうという不運もありました。しかしこれはハプニング。実にナチュラルに八代役の小森さんが拾い上げ、伊波さんもそれを受け自然にお芝居を続けていらしたので初日はまったくそのことに気がつきませんでした。しかし二日目以降蓋のやり取りは見られず、そのときになってようやくあれはハプニングだったのだと気づかされたくらいです。
 また、このやり取りは下手側で社長たちが銀行の融資の話をしているタイミングであり、上手側の伊波さんたちのお芝居には照明が当たっていません。つまり映画などでは見ることのできないお芝居です。自分の視線ひとつで見たい役者さんの演技が見られる。これもまた生の舞台ならではの魅力。役者さんのアプローチが変われば受ける側の役者さんのお芝居も変わる。そうして芝居は日々変化し、また役者さんの引き出し、演技の幅も広がっていく。そういった成長の瞬間に立ち合える。それが舞台。(私が何度も同じ舞台に通ってしまうのはそのためです。)


 他にも、イカサマを見破られた客が手を振りほどいた拍子に袖口からトランプが散らばるという演出。3日目のマチネ(昼公演)では袖口に引っ掛かったのか上手く出てきませんでした。その際も黒川役の反橋さんが自然なお芝居で客の袖口からイカサマトランプを取り出すという流れに持っていっていました。

 少し話はそれますが、Aqoursの1stライブ二日目。『想いよひとつになれ』で真っ先に逢田さんのもとへ駆けつけたときのことを伊波さんは「まったく記憶がない」と仰っていました。それが出来たのは、伊波さんが舞台という現場で経験を重ね培ってきたからこその行動だったのでしょうね。


 ただ3日目のソワレ(夜公演)では全体的に台詞を噛む役者さんが多かった印象。公演も3日目、そしてその日は二公演あったこともあり疲れもあったのでしょうか。ここまで三公演噛みしらずだった伊波さんも初めて噛んでしまったり。また「社長に近づくためにお嬢さんを利用した」という台詞が「お嬢さんに近づくために社長を利用した」と、意味合いが変わってしまう言い間違いもありました。ご本人が一番反省して悔しい思いをしていらっしゃると思うので。DVDでは上手く編集してくださってることを祈ります。

 

 

【カーテンコール覚書】


 ここからはうろ覚えではありますがカーテンコールのことを。

初日:
カーテンコールの挨拶でなぜか半笑いになってしまう伊波さん。隣にいた反橋さんにも「なんで笑ってるの」と突っ込まれ「いつもここ(カーテンコールのご挨拶)が一番緊張するんですよ!」と笑いを誘う伊波さん。お芝居ではあんなにも役に入り込んでいたというのに挨拶では普段のふにゃっとした伊波さんが見られる。このギャップがまた舞台そして伊波さんの魅力だと思います。とても可愛らしかったです。

2日目マチネ:
「本日は2回目の公演、でした…」また半笑いになってしまう伊波さんと「知ってます」と突っ込みを入れてくれる反橋さん。

3日目マチネ:
しっかりとしたご挨拶ができていました。

3日目ソワレ:
次の回がAキャストの千穐楽ということもあり。その熱い想いが溢れすぎたのか話が纏まらなくなってしまい、うにゃうにゃになってしまう伊波さん。正直4公演見たご挨拶のなかで一番可愛らしかったです 笑
 しかもここまで3公演はダブルアンコールだったにも関わらず、4公演目はまさかのトリプルアンコール!嬉しかったですね~。と、同時に千穐楽が観劇できないことが無茶苦茶悔しくなりました。関東に住みたい人生だった……。
 とはいえ4公演とも毎回飽きることなく、心から楽しめた作品だったので本当に当たりの公演だったと思います。

 


伊波杏樹さんについて】


 今回、伊波さんにとっては本当に大変なスケジュールだったと思います。
2/13~ ダンロン顔合わせ(他キャスト稽古開始)
2/25,26 Aqours1stライブ
3/1~ ダンロン稽古に合流
3/3 Aqours生放送
3/16~26 ダンロン東京公演
3/22~ ブラックダイス顔合わせ(他キャスト稽古開始)
3/30~4/2 ダンロン大阪公演
4/3 HPTコラボ車両お披露目会沼津
4/5 Aqours生放送
4/6~ ブラックダイス稽古に合流
4/20~24 ブラックダイス公演
4/21 CYaRon!生放送
4/23 CYaRon!沼津イベント

 けれど同時に、とても意味のあるタイミングの公演でもありました。
 1stライブでのお芝居部分を観て、伊波さんの舞台に興味を持った方は多かったことだと思います。直後にあったスーパーダンガンロンパ2は原作付きということで遠慮された方もいたのではないでしょうか。そこにきたオリジナル作品での舞台。しかも主演。勢いでもなんでも初めて舞台のチケットを取ったという事実。それが重要なのです。
 以前、舞台『地獄少女』でのサイン会で伊波さんは仰りました。「これをきっかけに舞台に興味を持ってくれる人が増えると本当に嬉しい」と。この言葉に「ああ、この方は心から舞台を愛していらっしゃるのだな」と心底感銘を受けました。

 普通に生活していたら舞台というジャンルは娯楽の中でも縁遠いものだと思います。だからこそ伊波さんは自分を‘きっかけ’にしてほしいと望んでいるのかもしれません。舞台を愛しているから。
 最初のきっかけは何でもいいのです。ただその一度のきっかけさえあれば、その先ひとりひとりの人生において観劇へのハードルはぐっと下がるはずです。

 伊波さんのファンの方は若い方が多いので、これまで舞台に触れたことない人も多かったはず。だからこそ、このタイミングで主演舞台を務めたというのは大きな意味を持ちました。もっと大きな言い方をすれば演劇界にとっても。
 舞台を愛する者のひとりとして、伊波さんには本当に頭が上がりません。頑張ってくれてありがとう。舞台に初めて触れた人たちを連れてきてくれてありがとう。

 (それでも……伊波さんが大好きなことをしているのだから心配しすぎるのも無粋…とは思いつつも、お体の心配はしてしまうのですけどね)


 今回舞台を観て面白いと感じられた方はぜひ、また舞台に足を運んでいただければと思います。その際、伊波さん関連の舞台で今回のカンフェティのように出演者を選ぶ項目があったときはどうか「伊波杏樹」さんでお願いします。
 舞台役者にとって演技力はもちろんですが、集客力も重要です。ここで集客力のある役者であることを印象づければ、いつか伊波さんの目標であるミュージカルへの道に繋がります。
 あと私たちにできるのはマナーを守って観劇すること。キャストのみなさん、裏方のみなさんが愛をもって作り上げた作品です。「気持ちの良い現場だった。またこの人と仕事がしたい!」そう思ってもらえるようなファンであり、観客でありたいですね。
 伊波杏樹さんの夢への助力。よろしくお願いいたします。


 ブラックダイス。多くの人の劇場への扉を開けた作品がこんなにも舞台への愛に溢れた公演であったことを誇りに思います。