エトワールの木漏れ日

舞台、ライブ、イベントなどの備忘録

舞台『MOTHERLAND』観劇備忘録 (北村諒さん、伊波杏樹さんゲスト回)

舞台『MOTHERLAND』観劇備忘録
北村諒さん、伊波杏樹さんゲスト回)

大阪公演12月18日(土) 13時公演/18時公演に乗船させていただきました。

 

 

 

【あらすじ】

(細かな話の筋は【登場人物】の項で語ります。ここではざっくりとしたあらすじを。)
時は春秋戦国時代。嬴政が紀元前221年に中華全土を統一し「秦」の始皇帝となるまでの話。

物語の冒頭。今まさに首を落とされようという男がいる。韓信
李信が剣を振り下ろそうとした瞬間、彼は言う。
優曇華の花が咲いたぞ」
驚きの表情を浮かべる昌平君。彼にとってその花は祖国にいる想い人、李環との思い出の花であった。
そして秦の王である嬴政は韓信の言葉を聞いて縄を解かせる。
三千年に一度しか咲かないといわれる花。その花が咲いたということは物事が大きく変わる吉兆。
そこから昌平君、嬴政、韓信の三人は語る。合従軍戦を戦い抜いた英雄たちの「最期の言葉」を。

楚・趙・魏・韓・燕の五国が合従軍となり秦に攻め入るも、それぞれの国・人と人との思惑や想いが入り混じり、英雄たちの「最期の言葉」が語られていく。
(ここでの「優曇華」とは実在する植物の方ではなく、伝説上の植物を指す。)

 

 

【全体の感想】

・昌平君、嬴政、韓信が合従軍戦の英雄たちの言葉を語る現在と過去。
・春申君と李環の娘「春霖」に、項燕と項梁が両親について語る現在と過去。
という時間軸の入れ替わりがあったため、初見はやや混乱する部分もありましたが。歴史さえ押さえていれば二度目の観劇ではすっと入ってきて『GHOST WRITER』より解りやすい構造だったかと思います。


開演15分前。李牧役村田洋二郎さんによる公演諸注意で笑いを誘う話術により、今回も観客の心を掴み客席を温めてくださいました。
・マチネ「本日は舞台『キングダム』にお越しくださり、あ、間違えました!」
・ソワレ「本日は舞台『ケロロ軍曹』にお越しくださり、(開場時間が押していたため)はい。もはや訂正はいたしません」

・「私李牧と申します。『キングダム』に登場する長髪イケメン軍師にそっくり!パクリでございます。嘘です」

・戦国ネタを交えつつ諸注意。途中しーんと黙り込んでからの「ねぇ。ねぇ?飽きた?もう少しだけ続けてもいい?」などトークの間が絶妙でドッカンうけていました 笑


開演直前。「ディスグーニー出航だ!」の掛け声から出航。
・マチネでは鈴木勝吾さん演じる帳良の林檎ネタと朝4時まで呑んでるネタ
・ソワレでは嬴政役松田凌さんによる「さっき諸注意で李牧が“みんななぜか疲れている”とか言っていたな。そんなの関係ない!板の上に立てばな!そんなの関係ないんだよ!!」
(マチネ公演が4時間弱どころか完全に4時間を越えていたため。役者さんにとっては実質50〜30分程度の休憩時間しかありませんでした。にも関わらずこの熱い言葉に、マチソワをした一観客としても奮い立たされました。)


ディスグーニーではお馴染みのシンディ・ローパの曲「The Goonies 'r' Good Enough 」(映画『グーニーズ』主題歌)から物語は始まる。

 

 

【登場人物/役者さんについて】

(台詞はだいたいのニュアンスです。私なりの解釈も入っています。記憶違いもあるかもしれません。)

①「楚」の人々

昌平君(しょうへいくん)/瀬戸利樹さん

祖国『楚』を愛する優しすぎる男。
楚で想いを通わせあう李環。師であり友である春申君と過ごしていたが、公子(考烈王の子)であったため人質として『秦』に送られる。

そこで秦の将軍である蒙武に「嬴政の心を開け」と命じられる。嬴政は幼い頃に「趙」に人質として送られ奴隷以下の扱いを受け心を閉ざしていた。そんな彼と昌平君とは境遇が似ていたのだ。
昌平君と同様に「嬴政の心を開け」と命じられた李信を助ける形で「私は黄石公に会いました」(「黄石公」については李環の項目にて)と告げる。
「自分を人質として他国に送るような秦は滅べばいい」という嬴政に「黄石公に会い言葉を聞いた私がいれば『秦を作り変えたい』というあなたの夢を叶えられます。そのためにこの身を尽くします」と誓う。
昌平君の言葉に心を動かされた嬴政は李信に己の非を詫び。その後昌平君と李信は嬴政の中華統一のために力を尽くす。

 


春申君(しゅんしんくん)/仲田博喜さん

昌平君の師であり友である「楚」の政治家。
楚に人質として送られる昌平君に「必ず連れ戻す」と約束するもそれを己の手で叶えることはできなかった。
昌平君と李環が恋仲であることを知りながら密かに李環に想いを寄せていた。

「楚」を守るため、「趙」の李牧と共に合従軍の軍師として立ち「秦」に攻め込む。(李環には昌平君の奪還作戦であると伝えていた。)
昌平君と敵として対峙し本気で刃を交えるも李環の予想外の行動(李環の項にて説明)により大勢は逆転し退却を余儀なくされる。
楚での立場を悪くし居場所を失くすが、李環の支えにより楚を立て直す。

後継のなかった考烈王に、自分と李環の子「春霖」を差し出し後の王とする。
赤子の春霖を抱いてあげるよう李環に言われるが「その子は王の子だ」と躊躇う。「この子にとってはあなたが父親よ」と諭されその手に抱く。
(この場面を踏まえて、後に春霖を抱きしめる昌平君の場面を観ると泣けます…)

この物語では影の方の韓信に暗殺された。
春申君は語る。「李環のことは本当に好きだったけれど。考えてみれば昌平君と李環が二人でいる姿を見るのが一番好きだったな」と。
自分の手で昌平君を連れ戻すという約束は果たすことはできなかった。それでも結果として李環との娘である「春霖」がそれを叶えてくれたことが救いでした。

 


李環(りわ)/伊藤純奈さん

「黄石公」の言葉を宿す巫女。
その身を器として、森羅万象あらゆること知るという黄石公の言葉を伝える。

戦には“大義”が必要であり、合従軍を立ち上げるにあたり彼女の“黄石公としての言葉”が重要な役割を担っていた。春申君はそのために李環を祭り上げた。
しかし、戦場で昌平君と再会したとき彼女が発した言葉は“黄石公の巫女”としての言葉ではなく。
「あなたをずっと待っています」
という“昌平君を想い続ける李環”としての言葉であったため形勢は逆転。
(嬴政に宛てた太子丹による「合従軍に動きあり」の密書のおかげに加え。劣勢だった「秦」にとっては“我が国の軍師である昌平君を黄石公が認めた言葉”となる。これに奮起したことも勝利の要因のひとつと思われる。)

この戦の後「お前も自由にしていい」という春申君の言葉に、自分のせいで退却を余儀なくされ、楚での立場を失った彼を「一人にはできない」と春申君と共にあることを告げる。彼との娘「春霖」を身籠り、考烈王の子として楚の後継を残す。

春申君が殺害された後、「自分だけが昌平君と再会することはできない」と谷に身を投げた。
かつて優曇華の花の下で交わした「昌平君の子を産むの。それが私の夢」そして「あなたを待ち続けます」という約束は果たされなかったものの。同じ優曇華の花の下李環の娘「春霖」を昌平君が抱きしめたことで、娘を通してその願いは叶えられた…と願っています。

 


春霖(しゅんりん)/鈴木みのりさん

春申君と李環の娘。
「楚」の考烈王の子として育てられ、考烈王の崩御後に王の立場となる。
しかし項燕と項梁の語った両親の話を聞き「本来この座につくべき人がいる」として兵を挙げ、「秦」にいる昌平君を迎えに行く。

考烈王と血の繋がりはなく王の血筋ではないが、秦の大王である嬴政に一歩も怯むことなく対面した姿は王の器として十分であったと感じた。
彼女の言葉と、ずっと傍にいたからこそ昌平君の本質を理解した嬴政からの「お前は祖国を討てない!」の言葉により。昌平君は秦を離れ「楚の王」となる。

祖国に戻った昌平君は、かつて李環と夢を語った優曇華の花の下で春霖と言葉を交わす。
彼女を抱きしめる昌平君の姿に
・春申君と李環の娘を抱きしめる昌平君
・春霖を通して、愛する李環と友である春申君を抱きしめる昌平君
二つの意味合いが感じられて救いでした。

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ソワレのカーテンコールでの挨拶で春霖を演じた鈴木みのりさんが初舞台だったと知り驚きました。
とにかく声が綺麗で、歌声を聴いたとき「誰!?音源…じゃない!歌ってる!!生歌!?」となり。お芝居での声も可憐でありながらか細いわけでもなく、聞き取りやすい声で美しい。可憐さが際立っていた前半からの国を治める立場となってからの覚悟に「王」とは血筋ではないという説得力を感じ、その声に春霖の美しい魂そのものを感じました。

 


項燕(こうえん)/凰稀かなめさん

「楚」の大将軍。この物語では女性。
実は項梁との子を産んでおり。彼女にとって最期の戦場にて「私たちよりもさらに高く飛べるよう子供の名には“羽”をつけた」と語っている。その子が後の「項羽」である。

その戦いぶりは常に笑みを浮かべ余裕を感じさせ、戦うことを心から楽しんでいた。その豪傑ぶりに、最強といわれる秦の将軍蒙武も一目置いており…というか惚れている。

行き場のない者を隔てなく拾い育て、また「その土地の方がお前の才能に合っているのだろう」とその者の行く末を縛ることもしなかった。楚を離れ秦の宰相となった李斯もその一人である。

その生き様は多くの人々を導き、若人に影響を与えた。
(今回のタイトル『MOTHERLAND』は直訳すれば「母国」=「祖国」という意味だと思うのですが。「国」というものが「人」であるならば。出逢った若き芽を拾い育み。時として導いたその姿は、まさに「国の母」であると。私は彼女こそがもう一人の主人公であったと感じています。)

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凰稀かなめさんのお芝居には宝塚時代から触れていて。退団後の作品としては音楽劇『銀河鉄道999』エメラルダス役。音楽劇『モンテ・クリスト伯〜黒き将軍とカトリーヌ〜』カトリーヌ&メルセデス役。そして今回の項燕。

どの役からも「強さの中にある確かな“優しさ”」が大好きで、今回は特に全てを包み込むような包容力が素晴らしすぎて惚れました。
(物語の中で項燕と手合わせした李信くんが「あの人かっけぇなぁ〜!!」を繰り返していた場面で「わかる。すっごい分かる!!」と心の中で繰り返しておりました。)
以前に伊波杏樹さんもラジオで仰っていたことがありまして。
「舞台でも袖でも見守ってくださっていて。お芝居に出る“優しさ”はかなめさんご自身から滲み出るものなんだろうなと感じた」
といったニュアンスのことをお話されていて。今回その空気に久しぶりに触れることができて、やっぱり好きだなぁと思いました。

とくに印象的だったのが、戦いの中で命を落とした「睡蓮花」の亡骸を目にしたときの表情。マチネでは「よくここまで成長し頑張ったな」という優しさに満ちた慈愛。ソワレでは育ててきた大切な若者を失った哀しみを滲ませた慈愛。どちらも母のような大きな愛を感じさせて泣かされました。

あと。項燕が女性兵士たちと共に戦場を進む場面が宝塚版『ベルサイユのばら』でアンドレを失った後のオスカル様の「シトワイヤン。行こ〜〜〜!」タタタ タンタンタンタタンタターン タタタン!の革命の場面のオマージュになっていて「めちゃめちゃ愛じゃん!!」と一人大歓喜しておりました。
そう思うと項梁の腕の中で項燕が息を引き取る場面も「今宵一夜」の場面と重なって見えますね。まぁこちらはたぶん違いますけど。
それでも「項燕と項梁」「オスカルとアンドレ」という戦場で最後まで傍にあり続ける関係性は重なる部分があり、項燕を女性にした設定をまた別角度から楽しむことができました。

 


項梁(こうりょう)/萩野崇さん

「楚」の武将。
実は項燕との間に生まれた項羽の父親。
この先の物語が描かれるDisGOONie Presents Vol.5舞台『PHANTOM WORDS』では項梁は“項羽の叔父”として登場している。(なにその上手い設定!ファンワズ観たくなる!!)

項燕の最期の戦場で「我が子と若い芽を育ててほしい」と託され。一度は彼女の傍を離れるも。その命が尽きかける間際に駆けつけ、その死を腕の中で見守り続け愛し抜いた。

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萩野崇さんのお声が相変わらず渋カッコ良すぎる!! あの項燕様が愛する人としての説得力よ!もう立っているだけで渋い。生き様を感じさせる立ち姿。格好いいなぁ。

 


睡蓮花(すいれんか)/新條由芽さん

項燕に拾われ育てられた「楚」の武人。
項燕を敬愛しており常にお役に立ちたいと願っている。
項伯と一緒にいることが多く、武人としての実力は彼よりも上。
秦との戦いの中で命を落とす。

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新條由芽さんキラメイグリーンの瀬奈お嬢様だったの!?と観劇後に「この役者さん知ってた!!」となる舞台観劇あるあるを久しぶり体験させていただきました。あの身のこなし。納得です!
「項伯…みんなをびっくりさせろ!」の台詞には泣かされました。

 


項伯(こうはく)/中川大輔さん

「楚」の武人。項梁の弟。
実は睡蓮花に想いを寄せているが全く気づかれていない。
睡蓮花の命の散り際に駆けつけ哀しみに打ちひしがれるが彼女に叱咤され再び戦場へと立ち上がる。

この睡蓮花が命を落とす戦場に赴く前の場面。
「お前は私より弱いけどいつも言われてるだろ。お前は太刀筋がいいって」
「俺がお前より強くなったら…」
睡蓮花に想いを告白しようとするが振り返るとすでに彼女は立ち去っていた。
「お前はいつも俺の話は聞いてくれないな〜」
この穏やかな笑いを誘う会話が後に効いてくるのです。死の際。睡蓮花は項伯に檄を飛ばします。
「項伯…みんなをびっくりさせろ!」
それが彼女の最期の言葉。
(今これを打ちながらまた泣きそうになっています…。
項伯くんさぁ….きっと睡蓮花のこの言葉を胸にずっと鍛錬を積むんだよ……。この姉弟のようで恋人未満の関係性が愛おしくてさぁ……泣く。)

 


②「秦」の人々

嬴政(えいせい)/松田凌さん

「秦」の大王。後の中国の初代皇帝(始皇帝)。
幼い頃に「趙」に人質として送られ奴隷以下の扱いを受けていたことから彼は心を閉ざし。「秦など滅べばいい」と祖国を憎んでいた。
しかし、昌平君の「黄石公に会い言葉を聞いた私がいれば『秦を作り変えたい』というあなたの夢を叶えられます。そのためにこの身を尽くします」という言葉をきっかけに彼の心は変化する。
中華統一。自身の辛い経験から、全てを一つにすることで戦を無くす。それが彼の夢となった。
しかしその道は茨の道であった。

彼は問われる。
「心許した友はいないのですか?」
彼は答えた。
「一人だけ、いた」

その友の名は「太子丹」。
「燕」の王族でありながら幼い頃、嬴政と同様に「趙」に人質として送られ奴隷以下の扱いを受けていた男。
そこで出会った彼らは約束を交わす。
「嬴政、共に生き延びような」
しかし、覇道を歩む者は時として心許した友の国すら討たねばならない。
非道とも思えるその選択を迷いなく選び取っているように見えた嬴政もまた、人知れず涙を流していたのだ。

そしてそれは共に夢のために覇道を突き進んだ昌平君の愛する祖国も例外ではなかった。
「楚」が昌平君を迎えに来たとき。昌平君はその申し出を断る。
だが、ずっと傍にいたからこそ昌平君の本質を理解していた嬴政はあえて罵声をあびせる。
「他国の者は信用できない!出て行け!!」
それでも秦に残ると主張する昌平君を嬴政は引き倒し馬乗りになって胸ぐらを掴んで叫ぶ。
「お前は祖国を討てない!」
嬴政は昌平君の心の奥の本音を彼以上に理解していたのだ。
彼にとって「祖国」とは「唄であり土」だと。(私は「唄=楚の巫女である李環」「土=楚の土」であると解釈しました)

嬴政のこの「言葉」は昌平君にとって「突きつけられた自身の本質」であり。「友として最後の贈り物」だったのでしょう。
涙を流しながらその言葉を受け入れた昌平君は秦を離れ「楚の王」へ。

楚に戻った昌平君は李環と夢を語った優曇華の花の下で春霖と言葉を交わし。李環の娘である彼女を抱きしめたことで、本当の意味で「祖国」に帰った。
願いを叶えた昌平君は春霖にこの場を離れるよう促す。楚の王の務めを果たすために。

そこに現れたのは嬴政。その語り口は敵国の王同士というには、あまりにも穏やかな会話であった。多くの言葉はいらない。

昌平君は己の務めを理解し。
嬴政は彼の望みを理解していた。

昌平君は嬴政の腰から剣を引き抜くとその刃で自害した。
抱くように倒れた先の大地は愛する祖国。
そしてこれから信じる友が統治する国。
彼が還る「土」は変わることなく愛する祖国となるのだ。

「楚」の最後を見届けた嬴政は三千年に一度しか咲かないという優曇華の花の下に腰掛け見守っていた。昌平君と李環が仲睦まじく再会するその姿を。

 


李信(りしん)/椎名鯛造さん

「秦」の武人。(漫画『キングダム』では主人公)

彼も昌平君と同様に蒙武将軍から「嬴政の心を開け」と命じられる。
始めは、偉い人だから仕方なくといった様子で「貴方のためなら何でもします!」と告げるが、その言葉を聞いた嬴政は「“何でも”と言ったな。ならば死ね。それが俺の望みだ」と答える。
反抗心から自棄を起こした李信は勢いで己の首を切ろうするが割って会話に入ってきた昌平君によって止められる。
昌平君の言葉から心を動かされた嬴政は己を非を李信に詫び頭を下げる。
王である嬴政がそんなことをするとは思っていなかった李信もまた考えを改める。
「嫌な奴かと思ったけど、そうでもないのか」

後に幾つもの戦場を嬴政と昌平君と共に乗り越えてきた李信は、嬴政を心から信頼し本当の意味で「命をかけ」忠義を尽くす。
(李信の忠義については、ゲスト回の北村諒さん演じる蒙恬との場面でさらに掘り下げられていました。)

武人としての実力もあり、その素質は楚の項燕も認めたほどである。
睡蓮花!嫁になるならああいう男がいい」
なお。その直後に睡蓮花には「ごめんなさい。好きではありません」と振られている。
(「告白してないのにフラれた〜!」の笑顔の叫びには毎回笑わせられました!)

 


蒙武(もうぶ)/的場浩司さん

最強といわれる秦の将軍。
基本的に人の話を全く聞いていないが、重要な場面では的を射た言葉で力強く若者たちの生き様を鼓舞している。

中華統一のために多くの命を失ったが彼は生き残り。嬴政と茶を飲む場面でこの物語は締めくくられる。

この物語では楚の項燕に惚れており、李信が項燕に会うと知るや否や手土産を手渡す。
マチネ「俺の好きなToshi Yoroizukaのピス・タチオ味のスイーツだ!よろしければどうぞと!」
ソワレ「(商品名は忘れましたが)コロンとしてて可愛いだろう」の笑顔が可愛すぎました 笑
なお。李信くんはきちんと「蒙武将軍からです!」と渡そうとしたのだが「甘いものはすかん!!」と一蹴されている。

/

前作『GHOST WRITER』のときから思っていたことがあります。的場浩司さん演じる武将。漫画『ONE PIECE』の世界だったら絶対に覇王色の覇気を使ってらっしゃいますよね!立っていらっしゃるだけで存在感と戦っているときのオーラが凄まじい!!
今回も強く威厳があり、ちょっぴりお茶目な最強の武将でした!

 


李斯(りし)/長友光弘さん

「秦」の宰相。
元は「楚」の生まれの人間であるが「その土地の方がお前の才能に合っているのだろう」と項燕から咎められるようなこともなかった。
だが「楚」への愛着もあるらしく、「楚のお米」が忘れられないとのこと。秦に来てからパンしか食べていないというほどの愛着ぶり。
「それでそれだけ太れれば十分だろ!」
「やだ項燕様。私、着太りするタイプですよ」
(めっちゃ笑いました 笑)

/

前作『GHOST WRITER』に続き今回も様々なアドリブで笑わせていただきました!
楚に赴いた場面で睡蓮花に対する
マチネ「そしてお前!ホテルのお前の部屋の前にメッセージカード付きでルームサービス置くぞ!どうだ、キモいだろ」
ソワレ「そしてお前!裏で背後から目隠しして『だ〜れだ♪』ってするぞ!どうだ、怖いだろ」

 


③ 燕の人々

太子丹(たいしたん)/平山佳延さん

「 燕」の王族。
幼い頃に人質として「趙」に送られ、そこで彼同様に「秦」から人質として送られてきた嬴政と出会う。
共に奴隷以下の扱いを受けながらも彼らは約束を交わす。
「嬴政、共に生き延びような」

時を経て。太子丹は「燕」の代表として合従軍に参加することになるが、彼は密かに「合従軍の動きあり」と嬴政に密書を送っていた。
戦況は秦にとって絶望的な状況。唯一の策が合従軍に参加していない国である「斉」との挟み撃ちであった。しかし秦から送った書状はことごとく合従軍により握り潰される。その中で太子丹が裏から「斉」に根回しをしたことで、秦は奇跡的に合従軍を退けた。

合従軍戦を終えた後。太子丹は秦に赴き嬴政に謁見する。昔と変わらず無邪気な笑顔で抱擁し拳を突き合わせる仲睦まじい二人。
「こいつが裏切っていたら危なかったけどな」
「裏切ろうかとも思ったんだけどなぁ。昔約束しただろう?『共に生き延びよう』と。その約束を俺が破るわけにはいかんだろう」

しかし友としての穏やかな時間はここまでであった。太子丹は「燕」の代表として「秦の王」に深く深く頭を下げる。
「他国に進軍するときは燕も共に力を貸そう。だからどうか「燕」だけは残してほしい」
だがその願いを秦王は一蹴する。
「無理だな」
太子丹はなおも懇願した。
「私の愛した国だ。秦が勝てたのは私のおかげじゃないか」
しかし嬴政は考えを変えることはなかった。
「国を一つ残せばそれが新たな戦の火種となる。全てを一つの国にしなければならない」

迷いなく覇道を突き進み、友の手を離したように見えた嬴政もまた。太子丹が去った後、一人涙を流していた。

嬴政との謁見を終えた後、太子丹は昌平君に告げる。
「祖国に書状を送るなら今しかないぞ」
太子丹は友の友であり、境遇の似ている昌平君のこともまた気にかけていたのだ。
しかし昌平君はその提言を穏やかに断る。自分の居場所は秦であると。
優しすぎる昌平君に太子丹は一抹の不安を憂いていた。
「お前は優しいなぁ。だがその優しさが悪になることもある…」

勢いを止めることなく韓、趙を攻め落とす秦に、「もはや嬴政を止めるにはこの手段しかない」と己の首を部下である樊於期(桓騎)に切り落とさせ。その首を、祖国「韓」を滅ぼされ復讐に燃える張良に手土産として持たせ嬴政を暗殺するよう託す。

「あの優しい昌平君を悪にしてはいけない」
言葉遣いも柔和で女性的衣装で着飾っていた太子丹であるが、首を落とすために髪を結い上げる姿は雄々しく。友を想い、国を愛する漢であった。

そんな太子丹の首を目の当たりにしたとき。嬴政は表情と言葉を失う。
張良は問う。
「太子丹殿の声が聞こえましたか?」
嬴政は答える。
「いや…」
だが嬴政には確かに太子丹の言葉が届いていた。
『嬴政、共に生き延びような』

嬴政は覇道を突き進む。誰もが愛する者と共に生き延びられる国を作るために。

(もうさぁ……一番どこで泣いたって。マチネを観終えた後に観たソワレでのプロローグで「人質時代の嬴政と太子丹がボロボロの布を頭から被って二人で隠れて饅頭をかじってた場面」ですよ!!!
ああやってさぁ……身を寄せあって、それでも笑顔を向け合って生き延びてたわけじゃないですかぁ……そんな二人がどうして…どうして……はい…打ちながら今も思い出し泣きしてます……)

/

太子丹が春霖に「覚えていますか?昔、幼いあなたのお相手をしたことがあるのですよ」と優しく語りかけた場面の直後。
「あなたは!」
「はい」
「誰?」
穏やかで素敵な場面からのズッコケちゃうギャップ。
「ちょっと…一つだけ。一つだけいいですか?覚えてないならもっと早く言ってもらっていいですか?」
春霖に手渡した思い出のお手玉を回収する。
「これ。こんなのもういらないね」
と思い出のお手玉を袖にぶん投げるシーン。
太子丹の柔和な雰囲気から一変し、思わず「平山佳延さんの素ですか?」と思ってしまうほどナチュラルな演技で毎公演とも笑わせられたことに感銘を受けました。全く同じことをして確実に笑いを取るというのは物凄いスキルだと思うのです!お気に入りのシーンのひとつです!

 


樊於期(はのき)=桓騎(かんき)/横山真史さん

「秦」の武将桓騎として登場するが、実は太子丹の命により十六年もの間「秦」に潜入していた「燕」の間者。
この件について太子丹は「私も嬴政を信じきれなかったのだ…」と語っている。

ようやく祖国「燕」の地で本来仕えるべき太子丹の前に膝をつけることの喜びを告げた。だが彼は何のために自分が呼び戻されたのかも理解していた。
太子丹が「私の首を手土産として嬴政に謁見し暗殺せよ」と張良に申し伝えたときも、彼は表情ひとつ変えることはなかった。

(これはゲスト回の北村諒さん演じる蒙恬と李信の場面で理解が深まったのですが。李信は蒙恬に「嬴政様の隣は誰にも譲らない!」と告げるのです。この場面を見たとき私は「樊於期も敬愛する太子丹様の首を切り落とす務めは誰にも譲らない」という強い意志と執着と忠義が覚悟としてあったのではないか。と解釈しました。

また、「李斯の楚のお米への愛」に関する会話。
桓騎「確かに李斯様は秦に来てから“秦のお米”を口にしていらっしゃらない!あなたはそこまで“楚のお米”を!!」
項燕「米米米米うるせぇな!!それでそれだけ太れれば十分だろ!」
李斯「やだ項燕様。私、着太りするタイプですよ」
このギャグとしか思えなかった場面も。桓騎として十六年間も「燕」を離れてなお祖国への愛を忘れていない樊於期が、李斯の祖国の米を愛する気持ちに共感し感銘を受けた場面として観られるのですから。西田さんは天才だなと思いました。)

樊於期は桓騎として、張良の謁見に同席するも暗殺は失敗。切られ倒れてなお、君主太子丹の首の入った箱に覆いかぶさり。守り抜こうとして迎える彼の最期は涙なくしては見られませんでした。

 


④ 韓の人々

韓信(かんしん)/谷口賢志さん

「韓」の王であるが「自分はそんな器ではないよ」と語っている。
彼の言う「同じ日に生まれた同じ顔を持つ男」とは、この時代に実際にいた同じ名前の「韓信」のこと。この物語では「弟」とされており、春申君を暗殺したのはこちらの韓信
張良に「もし会うことがあれば伝えてほしい。『今度はお前の番だ』と」託し、彼の人生はこの物語で幕を閉じる。
(この先の物語である舞台『PHANTOM WORDS』で谷口賢志さんが演じているのは弟韓信の方。)

 


張良(ちょうよう)/鈴木勝吾さん

「 韓」の武人で後に軍師としての才で頭角を表す男。(舞台『PHANTOM WORDS』でも活躍する)
若く何を考えているのか分からない無鉄砲さもあるが「韓」の王である韓信からの言葉。
「お前の地図を描いてみろ」
この言葉をきっかけに彼なりの戦略を描くようになる。だが彼の才能が完全に花開く前に「韓」は「秦」に滅ぼされる。
韓信様!まだあります!私は策を練りました!これもこれもこれも…!」
心から慕う王を必死に引き止めるも、韓信の決めた最期への覚悟は変わることはなかった。

「王族なんてなくなればいい」と考えており、その考えには楚の王となる春霖も共感している。
(敬愛する韓信の「私は王の器ではない」「生まれてこなければよかったなぁ」などの言葉から。韓信様が王でなければ死ぬことはなかったと考えているのかな?なんて思いました。)

 


内史騰(ないしとう)/青木玄徳さん

「韓」の将軍。
誰よりも民を愛し守りたいと願っていたがゆえに「戦の要である南陽の民を皆殺しにする」と脅され。「南陽の民には指一本触れさせない」という信念のもと条件に屈し「秦」に降る。この件から彼は「韓」にとって国を裏切った逆賊となった。

その後、韓を終わらせるなら…と自ら名乗りを挙げて韓を攻め落とした。
(自ら赴くことで祖国の民への被害を必要最小限に抑えたかったのかな?と思っています)

/

『GHOST WRITER』でもそうでしたが、今回も槍を振り回す殺陣が本当に迫力があって素晴らしかったです。

 


⑤ 趙の人々

李牧(りぼく)/村田洋二郎さん

「趙」の軍師。
楚・趙・魏・韓・燕。相容れるはずのない五国による合従軍をまとめ上げた天才軍師。
秦を倒すという共通の目的はあれど、おいそれとこれまでの国同士のわだかまりが消えるはずもなく。五国内で渦巻く裏切り。暗殺。彼はその「歪み」すら利用して計略を練り上げていた。
しかし、策略家の李牧もまた夢半ば「そんなの俺の地図にはない!」と叫ぶ若き才能を芽吹かせた張良に殺される。

死の際。彼は黄石公の言葉を耳にする。
(ゲスト回では伊波杏樹さん演じる娘「李左車」が登場し、彼の人間味のある部分が掘り下げられます。)

/

村田洋二郎さんの軽妙な話術には毎公演いつも笑わせられています!
開場時間が押していたソワレでの「諸注意アナウンス」でも「慌てずゆっくりお席についてくださいね」という内容を李牧として役柄を維持しつつ和ませてくださいました。

また作中。戦況を説明する「スケッチブック」とその内容が映し出された「背景」によるフリップ芸。
・蒙武将軍=返り血を浴びた的場浩司さんの写真
・戦の要=凰稀かなめさんの写真
・韓=KANの『愛は勝つ』のジャケ写
南陽=『スケバン刑事』の南野陽子さんの写真
その途中。これまでの公演で使い込んでいたためか、ソワレで1枚スケッチブックから外れてしまいました。
客席も声こそ出せないものも「あっ…!」という空気感で一つになった時。「これが生の良さですね〜」と笑いでさらに客席を沸かせていたのが印象的でした!

 

 

【One Day Special Guest】

蒙恬(もうてん)/北村諒さん

「秦」の武将。蒙武の息子。
「秦」を内側から崩さんとする「趙」の李左車(李牧の娘)を通じて敵国の手引きを画策する。
李牧に蒙武の息子であることを指摘されるが「親父は関係ない」と言い放つ。
(最強と言われる父親を超えたいのかな?という印象を持ちました。)
だが計略は失敗。

友である李信の窮地に駆けつけ彼を助ける。
「俺は賭けに負けた」
祖国を裏切る形となったからこそ、命を賭してこの戦場を請け負い李信を生かそうとする。
「親父を頼むな」
(この言葉が蒙恬の本質を象徴しているようで涙を誘いました)
だが一度はその場を離れた李信であるが、敵の刃が蒙恬を貫いたとき彼は戻ってくる。
「俺は最後まで嬴政様の隣は誰にも譲らない!お前にもな!」
李信にとって生き抜くことに何の意味もなく。嬴政の隣に立ち、役に立つことこそが生きる意味であった。例えそれが死を覚悟した友であってもその立場は譲れない!と。
その言葉を聞いた蒙恬は笑みを浮かべ。秦の武将として友と共に刃を振るうのだった。

/

マチネの「お前が(嬴政の)心を開け!」の場面でまさかの私服姿(白っぽいパーカーのフードを被った状態)で登場させられたのには笑いました 笑
しかも(演技なのかもしれませんが)ご本人もビックリした状態で小声でボソボソと「聞いてた感じと違うんですけど…」という発言にさらに笑わせられました。

崖のセットから降りてくると、韓信役の谷口賢志さんを見つけた北村諒さん。
(お久しぶりです!といったニュアンスで)
「賢志さん!」
「見えちゃダメ!見えちゃダメだから」
「見えちゃだめ?見えちゃだめなんですね…」
(しょぼん…みたいな雰囲気を出されるのがまた可愛らしかったです)
場面としては「お前が心を開け!」という過去の出来事を韓信、昌平君、嬴政が語り俯瞰して見ている場面であったため。韓信の姿は見えてはいけないという設定でした。


この時点で「轟くんのイメージからクールな人なのかな?と思っていたけど可愛らしい感じの人なのかな?」と思っていたら、さらに。
李斯役の長友光弘さんがさらにブッ込むから面白い!
「台本いつもらったの?」
「もらってないです」(小声)
「もらってないの?ここに5ページ分あるから見せてあげる」

ここからの流れの記憶があやふやですが
「結婚したんだって?」
「はい」(すでに恥ずかしそう)
「せっかくだから。ここで皆さん報告しなよ」
顔に手を当てたりして照れまくる北村さん。もはや可愛らしすぎて「アサミさん!絶対にこの可愛らしいお方を幸せにしてあげてください!」と謎の感情が芽生えました 笑
しかもあれだけ照れていらしたのに、いざご報告となると
「私、北村諒は結婚いたしました!」
とはっきりとした口調で誠実さを見せてご報告してくださるのですから、この短時間の間に「笑顔満点のアサミさんとお似合いすぎて見ているだけで幸せになれるご夫婦!ありがとう!!」と。これまた謎の感謝の気持ちが溢れて止まらなくなりました 笑

さらに蒙武将軍役の的場浩司さんまで役の設定上息子ということで
「息子よ!結婚おめでとう!!」
とブッ込むものだから会場中が笑いと温かな拍手で包まれました。楽しくて素敵な座組ですね!

衣装への着替えがあるということでここで北村さんは退席。

***

ソワレ

「お前が心を開け!」
北村さん:スッ!と岩陰から顔を出す(真顔)
北村さん:スー…と岩陰に下がる(真顔)
「お前が心を開け!」
伊波さん:スッ!と岩陰から顔を出す(真顔)
伊波さん:スー…と岩陰に下がる(真顔)


「お前が心を開け!」
北:スッ!(真顔)
北:スー…(真顔)
「お前が心を開け」
伊:スッ!(すでに半笑い)
伊:スー…(堪えようとプルプル)


「お前が心を開け!」
北:スッ!(笑ってる)
北:スー…(笑顔)
「お前が心を開け!」
伊:スッ!(完全に笑っている)
伊:スー…(もはや口元を押さえて笑っている)

長友さん「お前ら!何やってんの!もう降りて来い!!」
崖のセットから降りてくる北村さんと伊波さん。
長友さん「昼公演で楽しくなっちゃったのか?ほら!前に出て!意気込みをどうぞ!!」
伊波さん「意気込み!?」
どちらから行くかわちゃわちゃするお二人。
長友さん「どっちからでもいいから!」
伊波さん「(手を上げて)私から!……頑張ります!!!」
北村さん「よろしくお願いします!!!」
元気いっぱいに挨拶をした後、大きな拍手のなか足をコントのように大袈裟に跳ね上げながらバタバタと退場するお二人でした。

***

ソワレではマチネではいなかったプロローグにも出演されており。びっくりしすぎて「私マチネで見落としてた!?」となったのですが。冷静に考えてみたらマチネでは北村さん私服で登場していらしたので、プロローグにも出演されていたのは「ソワレだけ」でしたね。
しかもソワレでは(どの場面だったか記憶があやふやなのですが…決戦前だったかな?)全員揃ってポーズを決める場面にも出演されていたので。もはや超特盛セット状態でした!

***

<カーテンコールでのご挨拶>
マチネ
「ヒーロー活動の傍ら駆けつけさせていただきました!」
舞台『僕のヒーローアカデミア轟焦凍役で出演中のネタを絡めていらっしゃったのが印象に残っています。
(ヒロステネタで思い出しました。春申君が客席に「みんな〜!推しのブロマイドは買ったかい?」と問いかける場面でのソワレのこと。
「推しのブロマイドは買ったかい?なに?轟くん?ハッ!ハッ!ハッ!それは絶対に(他作品だから)ダメなやつだ!」
日替わりゲストネタを仕込んでくる仲田博喜さんが素敵でした 笑)

ソワレ
「この舞台にどうしても出たくて。何とかお願いします!なんとか!と調整してもらって出ることができました!!」
ディスグーニーに乗船することへの情熱と感謝を話されていました。

 


李左車(りさしゃ)/伊波杏樹さん

「趙」の軍師である李牧の娘。
(この物語では孫ではなく娘となっている)

父李牧に呼び出され、お前ならばこの戦をどう描くか尋ねられる。すでに手筈を整えていた李左車は父の前に跪くと不敵な笑みを浮かべ、父の背後に視線をやる。
そこにいたのは蒙恬という男。敵国「秦」最強の武将蒙武の息子であった。
「親父は関係ない」
祖国を裏切り手引きするのは己の意志であることを語る蒙恬
「秦」を内側から崩していく娘の手腕に李牧は大いに喜んだ。
「だが油断はするな」

父の言葉に頷くと彼らの元に現れた複数の敵。
李左車は動じることなく切っ先を首を傾けるだけで軽やかにかわし。右から襲いくる敵の刃を籠手(こて)で受け、そのしなやかさからは想像もできないほど逞しい拳で顔面を殴りつけた。さらに敵を高く蹴り上げると、李左車は余裕の笑みで髪をかき上げその場を去るのであった。

だが計略は失敗。
幾つもある己の描いた地図から次の策を練り上げようとする李牧だったが、「そんなの俺の地図にはない!」と背後から現れた張良に切りつけられてしまう。
死の際。李牧の前に一筋の光が差し、彼は黄石公の言葉を聞く。
「え…?それは本当ですか」

そこに駆けつけた李左車は、今にも倒れそうな父の手を握る。
「お前にも見えるか?聞こえるか?黄石公の言葉が!!」
死にいく父を想い。彼女は答える。
「はい。見えています。はっきりと」
「おお!なんと言っている!黄石公は!!」
「貴方こそが天に選ばれた者だと。器をやってもいいと」
だがその言葉を聞いた李牧は高揚した表情を一変させ、李左車の手を払いぽつり呟く。
「違う……私の聞いた言葉とは違う」
「いいえ!そう仰っています!!」
父こそが選ばれし者だと必死に主張する李左車。そんな娘を李牧は一喝する。
「優しさを間違えるな!!!」
はっとした李左車は己が成すべきことは死にゆく父を称えることではないと気がつく。
「貴方が描いた以上の地図はすでに私の頭の中にあります。気を遣ってずっと黙っていました」
涙を堪え笑顔でそう告げると、父李牧は満足そうに笑った。
「そうか…それでいい。それでこそ私の娘だ!」
「はいっ」
父の手を包むように取ると李左車は涙をこぼし父の最期を見届けるのであった。


(一幕で己の策を披露する場面では、父李牧の狂気的な面も受け継いでいるのかと思いきや。二幕で見せた優しさのギャップに完全にやられました。
ソワレではプロローグにも出演しており。「尊敬と愛情に満ちたの眼差しを向け父李牧に学び談笑する李左車」といったワンシーンが追加さたことで。
上記の場面で、李左車がどれほど深い想いで「父こそが選ばれし者」とうったえていたかがより深く伝わり。そして「そんな父を超える」という意志に至った、李左車の優しさだけでない“強さの芽生え”にさらに胸が熱くなりました。

今回は武器は持たず素手の殺陣。
これは伊波さんが空手経験者という理由だけでなく。まさに徒手空拳。この先、李左車が己の才能ひとつで父をも超える戦略家として歩んで行くことを意識した演出だったのかな?と思いました。)

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総出演時間としては10分あるかないか。この短い時間の中で「李左車」という女性の歩んできた背景を背負い。人生を描き出す伊波さんのお芝居が大好きです。
伊波さんは自分で意識的にコントロールして涙を流すタイプの役者さんではないと個人的に思っていて。(舞台上では完全にその人物として生きている方なので。)
だからこそ李左車の流した涙に血が通っていて、あそこまで心を揺さぶられたのだろうなと。

人生を表現するということに「時間」は関係なく。そこに確かな技術と心が宿っていれば「深みのある人生」を描き出せるということを伊波さんのお芝居を通して実感いたしました。これだから演劇は面白い!

※台本は前日にいただいて。殺陣は当日の朝つけてもらったのこと……凄すぎる。

それにしても……伊波さん。美しかったなぁ。
拳で相手を殴り倒したあと!あの美しい髪をスッ…とかき上げる色気たるや!!
ありがとう…ありがとう……伊波さんにオファーしてくださりありがとうございます……怒涛のスケジュールの中それを受けてくださりありがとうございます……。

ところで収録用のカメラとか入っていなかったのでしょうか?もはや収録用じゃなくてもチェック用の画質低めの映像とかでも全然OKなので全てのゲスト出演部分円盤に収録ありませんかね?ストーリーとしての密度が濃すぎて『MOTHERLAND』の世界に触れた人すべてに観ていただきたいのですが!!!(というか私も他のゲストさん回のお話も観たい!!)

***

<カーテンコールでのご挨拶>
マチネ
「この素晴らしい船に二度目の乗船をできたことを心から感謝しています。
この後のソワレ、そして明日の千穐楽も。皆様の心に色々なものを残せたらなと思っております」

ソワレ
「皆様のキラキラした表情や笑顔がマスク越しからも伝わってきて嬉しく思います。
明日の千穐楽は配信もありますので。最後まで無事に公演が終えられることを願っています」


===

北村さんは轟焦凍役として出演中のヒロステの東京公演と京都公演の間という日程でのご出演。
しかも公演当日の夜には他作品の生配信にも出演されていて驚きました。

伊波さんもトガヒミコ役として、同じくヒロステの東京公演と京都公演の合間でのご出演。
12/18(土) 『MOTHERLAND』ゲスト出演
12/19(日) ソロライブ『Fly Out!!』打ち合わせ
12/21(火)『Aqours』としてのライブリハーサル
12/23(木)『ヒロステ』京都入り
12/24(金)〜26(日)『ヒロステ』公演期間
12/29(水)・30(木)『Aqours』ライブ
12/31(金)『ラブライブ !シリーズ』年越しライブ
こちらで把握できるだけでもこの怒涛のスケジュール。

ソワレのカーテンコールにて北村さんが「なんとかしてこの公演に出たい!」というお話をしてくださっていたように。
役者さんにとってディスグーニーの舞台はそれだけ魅力的な船なのでしょうね。
またあの船に乗る推しを観たい!!
そう心から願っています!

 

 

【終わりに】

起きた過去が変わることはない。けれど。
散りゆく人々の「最期の言葉」をどう受け止め。どう解釈し。どう語り継ぐか。
生き延びた人々が何を物語るのかで、その物語は変わりゆく。

「祖国」という感覚が彼らほど深く根付いている私ではありませんが。それでも。
こんなにも尊い物語が生まれ、舞台を愛する人々が紡ぎ体現できるこの国を愛おしく思います。
願わくば、そんな土壌が永久に続きますように。