エトワールの木漏れ日

舞台、ライブ、イベントなどの備忘録

ミュージカル『ラヴズ・レイバーズ・ロスト-恋の骨折り損-』観劇備忘録

 

東京公演 10/1(火)・2(水)
兵庫公演 11/1(金)・3(日)・4(月祝)
福岡公演 11/10(日)
観劇させていただきました。

 

 

 

【舞台と客席との境界線】

全体の印象として喜劇ということで大変リラックスして、そしてこれまで経験したことないほどに客席参加型の舞台で楽しませていただきました。
その空気感を作り出したのが、なんと言っても開演前から登場し客席を温めてくださった
コスタード役:東山裕介さん
ダル役:加藤潤一さん
ジャケネッタ役 :田村芽実さん
お三方は開演約20分前に登場。

 客席を回るコスタードとダルが何を始めるかと思えば突然の「ジュース」の販売!(地方公演では飲食禁止の劇場もあったため「公演プログラム」販売に変更)
役として登場しているのでジャケネッタは舞台上のバーで気怠げな様子(日によって音楽に合わせて踊ったり、地方公演ではプログラムを読んでいたり)。途中ジュースが売り切れると舞台奥から追加してくれるのも彼女の役目。

  とはいえ東京公演初日は「え?ジュース?本当に?冗談じゃなくて?」という戸惑いの空気も。その空気のなかスッと手を挙げた一人の男性。
コスタード「ありがとうございます!!!(←なかなか買ってくれる人がおらず焦っていらしたのでしょうね。情感のこもり方が半端ない 笑)炭酸水、メロンソーダ、オランジーナどれにします?オランジーナ!300円です(意外と高い 笑)。そして、僕と握手」
そのやり取りを見てこれは冗談ではないと客席も理解。二人目も男性のお客様。女性の方たちもそれに続き、初日はオランジーナが大人気でした。

 観劇人生のなかで公演グッズの紹介や販売はあれどジュースの販売は初めての経験でした。
しかし後々になってこの演出も納得。今回の舞台はとにかく客席参加型。開演前から登場人物たちが舞台から飛び出し客席でバーの飲み物を販売する。それにより舞台と客席との境界線はなくなり、観客もまた物語の世界の一員になるわけです。

 


【感想:登場人物/キャスト】

コスタード/東山裕介さん

飲み物完売後もコスタードは舞台上から前方席のお客様たちとしばしの談笑タイム。
コスタード「俺の名前はコスタードっていうんです。俺の名前は?」
客席「「コスタード」」
コスタード「俺の名前は?」
客席「「「「コスタード!!」」」」
コスタード「ありがとう!またあとで!」
(公演を重ねるごとに
「あなたの恋人?」コスタード/
「シュークリームといえば?」カスタード/
「ホットドッグにかけるものといえば?」マスタード/
などバリエーションが増えて毎回の楽しみでした。)

その言葉どおり再び登場したコスタード。今度はマイクを使い、地震など非常時の対応、携帯電話の電源のOFFなど。観劇時の諸注意を確認。
そしてここからが彼の最も重要な役目。
コスタード「この舞台は帝劇みたいにお上品にパチパチパチなんて拍手して観劇しちゃダメ。大笑いしてヒューヒュー♬言って盛り上げてほしいんだ!ちょっと練習してみようか」
大きい拍手からの小さい拍手。
小さい拍手からの大きい拍手。
さらに大きい拍手からのパンッ!パンッパンッパンッ!!(←コスタードさんキレキレの決めポーズ)
客席「「「「「Fooo!!!!!」」」」」
コスタード「そう!それそれ!!ありがと〜!公演もその調子で頼むね!お願いだから笑ってね!!」
とユーモアたっぷりに務めを果たし客席を温めてくれたのでした。


/遠山裕介さんには毎公演本当に楽しませていただきました。陽気な語り口で「本当に声を出してもいいの?」という客席の戸惑いを払拭。回を重ねるごとに観客との距離が縮まり、客席が温まっていくのを肌で感じておりました。

 また福岡公演千穐楽ではジャケネッタさんに女性ファンがとても増えていました。手を振っている女性に色っぽく微笑んで応えるジャケネッタさんという珍しい光景。それを感じ取ったコスタードさんが去り際「ジャケネッター!」と叫んでくださり、客席もFooo!!!と歓声を贈ることができました。その時のジャケネッタさんの笑顔とてもキュート!そういったその日その日の客席の空気を感じ取りキャストさんの魅力を引き出してくださる遠山さんの臨機応変さに感服いたしました。

 木下晴香さん初主演ということで行こうか迷っていた『アナスタシア』ですが、遠山さんも出演されることが決め手となりチケットを購入いたしました。スペシャルカーテンコールでの挨拶でもコスタードを貫いていらした役者さんなので、チャラ男でない遠山さんの演技が今から楽しみです!

 


ビローン/村井良大さん

 ビローンはファーディナンド国王の取り巻きのなかでもリーダー格。頭の切れる彼はその口の上手さで、時として王すらも言いくるめてしまいます。
また学生時代に「金持ちだから」という理由で親しくいたアーマードのことを、心の中では恋愛にしか興味のない愚か者だと見下してすらいました。
そんな彼がかつて淡い恋心を抱いていたロザラインと再会したことで変わり始めます。

大学時代、恋愛には目もくれず勉学に勤しんだ自分を誇らしくすら思っていた彼はロザラインへの恋心をすぐには認めることはできません。
しかしアーマードと再会し、本当は彼こそが勇敢なる者だったのではないかと認めたときビローンは変わります。
この心情の変化を歌い上げた『♪Change of Heart』が良い!
ビローンにとって大学で学んだ知識や雄弁な言葉は傷つきやすい心を守るための武器でした。その武器はアーマードを恋する英雄と認めたそのとき、愛するロザラインへの恋をしたためる手紙となったのです。

 『恋の骨折り損』は恋愛を主軸とした物語ではありますが、こういった感覚は恋愛に限らずあるのではないでしょうか?
夢や目標が叶わなかったときに「本気じゃなかったし…」と自分に言い訳をしてしまう気持ち。
ひとつの恋が終わったとき「あれは遊びだったし…」と自分に嘘をついてしまう気持ち。
ビローンのように、一生懸命な人に憧れのような燻った感情を抱きつつも素直に認められるず斜に構えてしまう気持ち。
共通しているのは〝傷つきたくない〟という自分の心を守る気持ち。
この作品は喜劇でありながら、そういった内に沈めた〝ざらりとした感情〟を撫でていくのが隠し味になっていると思いました。

 そしてビローンの成長はそれに止まりません。自分のしたためたロザラインへの恋文が手違いから紆余曲折の末、国王ファーディナンドの知るところになり『恋愛禁止』の誓いを立てたはずの四人全員が恋をしてしまったことが露呈する場面。
こと〝名誉〟に固執する国王ファーディナンドは誰よりも落ち込み、ビローンに頼みます。
「この恋が違法でない、正義に違反していないことを証明してくれ」と。

その願いに彼は王の取り巻きではなく、ファーディナンドの友人として。恋する同志として応えます。
恋愛禁止なんて無意味だ。人の成長に恋は必要。哲学書を破り捨て手紙に思いを書き綴ったその時から成長は始まっている。恋に立ち上がるべきだと!
彼の言葉は恋に立ち向かう武器だけでなく、傷ついた友の心を守り奮い立たせる盾へと成長するのです。
そこで歌われる『♪Are You A Man?』たるや圧巻。秘めた男たちの恋心が燃え上がる熱い歌声。折り重なる言葉の重奏のハーモニーに聴いているこちらの心まで滾るものがありました。

 ちなみに原作ではビローンとアーマードに深い接点はなく、「この俺が恋に落ちた…」という戸惑いの描写はあるもののビローンはいきなり恋文をしたためています。今作ではアーマードと接点を持たせることで、ビローンの戸惑いと心境の変化を分かりやすく伝え。ビローンという男性の人物像をより魅力的に描き出していたと感じました。


/ビローンはアーマードに対する台詞などシニカルな言い回しもあるのですが、それが嫌味になりすぎないのが村井さんの魅力だなと感じました。
王を出し抜き「分別なんかクソくらえ」とスマホと一緒に封印したはずのタバコをジャケットの内ポケットから取り出し、チュッと口づける〝一筋縄ではいかない男〟のスマートな色気。そういった仕草の積み重ねがビローンという男性の魅力を引き出していたと私は感じました。

 村井さんのことを初めて拝見した朗読劇『私の頭の中の消しゴム』。泣けるストーリーのなかで光るコミカルな演技に惹かれ。ミュージカルではどんなお芝居をされる方なのだろう?と期待に胸を膨らませておりました。
歌声、台詞ともに聞き取りやすく。後日拝見したミュージカル『デスノート』のMVでの高音もとても綺麗で感動。気がつくとデスミュのチケットを買っていました 笑
新たな村井さんにお会いできる日がとても楽しみです!

 余談ではあるのですが、2.5次元系で私が興味をもった役者さんの出演作品をだいたい持ってる妹に「村井良大さんの出演舞台で何かDVD持ってる?」と聞いてみたところ「お芝居の円盤はないけどテニミュドリライならあるよ」とのことだったので見せてもらいました。
何がびっくりって村井良大さん(宍戸亮役)だけでなく、デュメーン役の渡辺大輔さん(手塚国光役)やアーマード役の大山真志さん(千歳千里役)も出演されていたのですね。10年近く前の映像だったので皆さんお若い!他にも舞台で拝見したことのある役者さんが何人もいらして、ミュージカル『テニスの王子様』の築いたものの大きさを感じました。(4代目青学から5代目青学へのバトンタッチシーンでは普通に泣いてしまいました 笑)

 


ロザライン/沙央くらまさん

 ビローンとロザライン。再会時まったく噛み合っていない恋の駆け引きを繰り広げる二人が面白い。学生時代の二人の様子が伺えます。
彼らは鏡のように事あるごとに反発しあいます。ともに聡明であるはずなのに、なぜそのようなことが起きたのか。それは二人がとても似た者同士だったから。

 ビローンの言葉が心を守るための武器ならば、ロザラインの知性は心を守るための鎧です。いくら上辺だけの雄弁な言葉を連ねたところで、頑なな鎧を纏ったロザラインの心には届きません。
しかしビローンは変わりました。想いを寄せる女性たちにからかわれてなお、さらに傷つくことをいとわずロザラインの手を取り愛を告げるのです。(この場面は今思い返すだけでも熱いものが込み上げます。)
その言葉は頑なだったロザラインの心の鎧をほどきます。

 意地という鎧を脱いだとき、ロザラインは本来もつ彼女の聡明さを取り戻します。
やり過ぎたイタズラに微妙な空気を感じつつも自分たちの非を認めることができまない王女を「何が楽しいっていうの?」といさめるロザライン。
それまで友人たちに流され同調していた彼女が一歩先に大人になった瞬間でした。

 『♪Stop your Heart』
私たちはもう若くない。私も彼らと同じ。もうこの恋を止められない。
そう友人たちに語るこの歌は女性たちの葛藤と成長過程を表現していたと思います。
ロザライン役の沙央くらまさんの落ち着いたしっとりした歌声。彼女の言葉に耳を傾け心情の揺らぎを表現する台詞のない友人たちのお芝居に引き込まれました。
自分たちを『♪Young Men』と称する男性陣。そんな彼らのことを『♪Hey Boys』とまるで「お子様ね」とでも言うように歌っていた彼女たちもまた、大人になりきれない女の子たちだったわけです。


/個人的に沙央さんについては宝塚時代に演じられた『恋天狗』の小天狗役が一番印象に残っていたので「綺麗なお姉さんになって!」と、もう〝コマちゃん〟なんて呼べなくなってしまったことに親戚のおばちゃんかのような感慨に耽っておりました。

 


アーマード/大山真志さん

 前述のようにビローンが己の恋心を認めるに至る重要な人物です。彼が滑稽であればあるほど恋する様は面白おかしく。そのダサさの奥にある〝全身全霊で恋をする勇気〟が煌めくのです。

 欲望に忠実すぎる詩を書いていた彼が、いざジャケネッタを前にするとそわそわと落ち着かない様子でピュアさを発揮するのがずるい。
ビローンたちがジャーマンポテトズとしてダンスを披露するなか、アーマードもまた勇気を振り絞ってジャケネッタに話しかけ乾杯する姿が可愛らしい。そんな彼の姿に少しずつ心を開くようにアーマードの隣に移動するジャケネッタ。
やがてビローンたちが変装を解き各々の想い他人への愛を歌う姿に、ジャケネッタはアーマードをじっと見つめます。まるで「あなたは言ってくれないと?」と期待を滲ませるかのように。
しかし煮え切らないアーマードの態度に傷ついたジャケネッタは逃げ出してしまいます。ハッとして彼女を追うアーマード。その背中にはそれまでのそわそわとした迷いは無く恋する英雄そのものでした。(ジャケネッタがなぜ逃げ出したのかは次の項で)


/『♪Jaquenetta I Love You』の歌詞を東京公演初日に初めて聴いたときは、そのド直球な下ネタに、後日母と一緒に観劇を予定していた私は心の中でそっと頭を抱えたわけですが…笑
しかしその後、数日間どの曲が一番頭の中を支配していたかといえばこの曲だったわけで。キャッチーなリズムと甘くムーディーか歌声がずるい!
正直歌詞については受け入れがたいものがあるのですが、芸術に触れていると時としてそういった自分の中の固定概念を飛び越えて「でも面白い!」と思わされる瞬間に出逢えることがあります。
今回の舞台において大山真志さんの歌声がまさにそれでした。凝り固まった思考や嗜好を壊し、新たな感性に出逢える喜び。これだから観劇はやめられません。
とくにジャケネッタへの恋文が手違いでロザラインの元に届けられたときの二階の窓がパンッと開いての♪ジャケネッタ ジャケジャケネッタ I LOVE YOU〜は最高すぎました 笑 もう大好きです。

 またモスくんの『I Love Cats』での腹鼓による合いの手。オペラグラスでよくよく見るとお腹が真っ赤になっていらして色んな意味で体を張っていらっしゃるなと、本当にたくさん笑わせていただきました!

 


ジャケネッタ/田村芽実さん

『♪Rich People』で金持ちに対し中指を立てていたコスタード、ダルと共に「金で買うSEX」と歌っていたジャケネッタ。彼女は貧しい暮らしゆえにまともな教育も受けられなかったのでしょう。文字が読めないためアーマードからだという手紙を自分で読むこともできずホロファニーズ教授のもとを訪ねます。
しかし、その手紙は手違いから自分に宛てられたものではなく、ビローンからロザラインへの手紙だと判明。
この時のジャケネッタの傷ついた表情が忘れられません。

 物語の前半。アーマードの召使いモスはジャケネッタのことを「尻軽女」と称します。しかし本当にそうでしょうか?
彼女が本当にただの尻軽女ならば何も考えずに金持ちであるアーマードの玉の輿に乗れば良いのです。
けれどジャケネッタは一枚の恋文に期待し傷ついた。まるで少女のように。

 直後に『♪Love's A Gun』で歌われた血を吐くような悲哀は彼女の人生そのものだと私は感じました。
愛は拳銃。傷つけ傷つけられもする。加害者にも被害者にもなりえるもの。
彼女がアーマードの愛を受け入れることにどれほどの勇気が必要であったか。

 ロザラインたちが手紙を受け取ったのと同様にジャケネッタもまた本来のアーマードからの恋文を受け取ります。しかし彼女は戸惑います。
「これは貧しい暮らしから抜け出すチャンス。でも本当に信じていいの?」と。
富を得たいだけならば悩む必要はありません。けれど彼女が本当に欲しいのは〝愛〟なのです。
前述で彼女がアーマードの前から逃げ出した理由。それはさらに深く傷つくことを恐れたから。
はっきりとした言葉をくれない不安が、アーマードの愛を信じかけていたジャケネッタの心を傷つけてしまったと私は解釈しました。

 擦れた女を演じていた彼女が、本当は登場人物のなかで誰よりも繊細な女性だったように思います。三年間鍬で畑を耕すというアーマードの誓いは彼なりの誠実。愛を勝ち取った英雄は時間をかけて、愛に臆病な愛しい人のためにその愛が本物であることを証明してくれることでしょう。

(東京公演の初日では考えられなかったのですが。ジャケネッタの人物像とアーマードのピュアさに気づき、理解すればするほど彼らの恋が愛おしくてたまらなくなってしまい。兵庫公演千穐楽の頃には『♪The Tuba Song』でのアーマードの「僕は君が欲しいよ」の告白とその気持ちに答えるジャケネッタのキスにうるりときてしまいました。
そうそう。アーマードがジャケネッタのために三年間鍬で畑を耕す誓いを陛下にした際、アーマードに促されてたどたどしくぺこりとお辞儀をするジャケネッタの姿がとても可愛らしかったです。)


/『♪Love's A Gun』での歌唱力はもちろんのこと。5分という場の支配力に圧倒されました。ダンスもフラメンコにタップダンスにと多才。
ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』でのマリア役、ミュージカル『ヘアスプレー』のアンバー役など。これから期待のミュージカル女優さんに、このタイミングで出会えたことを感謝いたします。ウエストサイドはどうしても遠征が厳しいので、ヘアスプレーの大阪公演は頑張ってチケットを取りたいと思います!

 


フランス王女/中別府葵さん

 天真爛漫でちょっぴり我儘。そんな彼女の性格を形成する要因を、大学時代にファーディナンドと王女にあった淡い青春の出来事を語るロザラインの台詞から垣間見ることができます。
「ブチ切れてた。貴女のお父様が」
年頃の娘がよその男と過ごしていたとあれば男親としては心中穏やかではないでしょう。そこに政治的配慮があったかまでは分かりませんが、少なくともフランス王女は父国王から大切に育てられていたことはうかがえます。

 また「パパに邪魔されたの」「パパなんて嫌い」という王女の台詞から「あれは火遊びだった」と言いつつも当時の彼女にとっては本気の恋だったことが分かります。
次代の王女である彼女には権力が付いて回るもの。その権力という欲に目がくらんで彼女に近づく者も多かったことでしょう。そんな彼女にとってファーディナンドは初めてひとりの女性として自分のことを見てくれた男性だったのかもしれません。
だからこそ父親の邪魔で自分との恋を諦めてしまった彼のことが余計に許せなかったのではないでしょうか。
彼にとって私との恋は浮ついた恋という意味での浮気。その程度の気持ちだったのね。今だってそうなんでしょ?と。

 それは、父親に屈っせず恋を貫いてほしかった乙女心の裏返し。
仮面を入れ替えて男性たちを欺くようなまねをしたのも、懲らしめてやろうという気持ちもありつつ。彼らの愛を試したかった気持ちもあったのではないでしょうか?
仮面の奥の〝本当の私に気がついて〟そんな乙女心だったのでは?と思っています。
結果的にファーディナンドが王女の仕掛けたイタズラ自体に気づくことはありませでした。しかし「貴女は仮面の下に二枚舌をお持ちのようだ」と仮面の奥に隠した本心に気がついてくれたとき、彼女はようやく自分の気持ちに素直になることができたのです。

 また王女としてではなく、友人として彼女の非を指摘し諌めてくれたロザラインという友に出会えたことは彼女の人生において大きな宝であり。ひいては彼女の治めるフランスという国にとっての幸福でもあったと思います。
ロザラインだけでなく共に一年の喪に服す約束をしたキャサリンやマライアもまた、友情と敬意をもって彼女を支えていくことでしょう。
王女を自分の代理として送ったのは、己の死期を悟った父親からの最期の罪滅ぼしであり、贈り物だったのかもしれません。


/初日のハイヒールからヒールのない靴に変わっていたので、お怪我でもされたのではないかと心配していたのですが。ひょっとして全体のバランスを見ての配慮だったのでは?と。それでも際立つスタイルの良さに目を奪われました。
スラッとした綺麗系なのにとても可愛らしい王女様という印象からの後半。凛とした立ち姿が王女としての成長を感じられてとても素敵でした。

あと個人的な出来事なのですが、初日の観劇後宿泊したホテルのテーブルにドミノピザの広告があり思わず「ピザハットよぉ〜!」と叫んでしまいました 笑
お気に入りのシーンのひとつです!

 


ファーディナンド/三浦涼介さん

 印象的だったのがこちらの台詞。
「この誓約を破った者は自らの足で名誉を踏みにじることになる」
若さゆえに名誉に固執する国王の幼さが感じられます。
そのためか誓いを破り恋をしてしまったことが発覚した場面での彼の落ち込みぶりは他の三人の誰よりも深いものに見えました。それほどまでに彼にとって名誉は重要なものだったのでしょう。

 やがてビローンの励ましにより恋に立ち上がったファーディナンドですが、王女の手酷いからかいに恋心を傷つけられてしまいます。ここでも彼は背中を丸め酷く落ち込んだ様子を見せます。
しかし、ロザラインに自分の非を指摘され一人たたずむ王女を目にしたとき、彼は学生時代に本当に守るべきだったものに気がつくのです。
それは名誉でも国王としての立場でもなく、ひとりぼっちの寂しがり屋の女の子の心。

 彼は尋ねます。この度の非礼を詫びるにはどうしたら良いかと。そして彼女は本音を吐露するのです。
お金はいらない。家族さえもいらない。でも貴方のソネットは好き。私はプリンセスで貴方はキング。そうでしょ?(ここで頷くファーディナンドの切なさと慈愛に満ちた瞳がまた涙を誘いました)だから愛はいらない…でも本当は欲しい。
二人はようやく気持ちを通わせ合うのです。

 フランス王女は父王の訃報を知りよろめいてしまうほどのショックを受けます。しかし次には凛とした王女然とした立ち姿へと成長します。その根底で支えたものこそ、ファーディナンドから愛を受け取り満たされた心だと私は思っています。

 ファーディナンドは王女を引き止めますがそんな彼に王女は言います。
「私はこれから一年間喪に服します。貴方がもし一年後もその愛を枯らさずにいたなら私は貴方のものになりましょう」

名誉とは作り出すものではなく、その行いによって与えられるもの。
寂しがり屋の少女は愛に満たされたことでひとりで立ち上がる女性へと成長した。それがファーディナンドが成した功績。
フランス国王から託された宝物こそが彼にとっての本当の名誉だった。私はそのように受け止めました。

 11月3日の兵庫公演にて、降ってきた花びらが王女の髪についたままになってしまいどうするのかな?と思っておりました。すると別れ際、見つめ合ったあとに陛下がそっと取ってあげて離れてから花びらを愛おしげに胸に抱くお姿が神々しいほどに愛に溢れていました。その姿を見て陛下は絶対に一年後も花を枯らさない方だと確信いたしました。


/端正な顔立ちから紡がれる愛の調べにはただただうっとりするばかり。そんな天性の素材もさることながら、お客様を舞台に上げるという緊張の演出のなか、ひとりひとりのお客様に合わせたエスコートぶり。そして丁寧に頭を下げての「ありがとうございました」の一言に三浦涼介さんとしての人柄の良さを感じました。
また素人さんを相手にしながら目線や流れるような指先の動きで視線を誘導し、自然と星を見上げる芝居を成立させる技術に役者さんとしてのスキルの高さを感じました。

 チャイムの音に出てきた際の「あはっ、あはっ、ピンポンダッシュか」の言い方に愛嬌があり、その端正な顔立ちとのギャップに母性がくすぐられました。チャーミングという言葉がぴったりの国王様。
個人的に『ロミオ&ジュリエット』のベンヴォーリオ役で、ちょっと抜けた愛嬌のある役もこなす方なんだと新鮮さを感じていたのですが、今回はその〝愛嬌〟にも複数の引き出しをお持ちの方なんだと知ることができました。

 公演前、三浦さんのコメディ出演にファンの方が久しぶりに推しが不幸にならない役に喜んでいらっしゃる感想をお見かけして「わかる」となっていました(伊波さんも自殺志願者や病いや宿命を背負ったり重い役どころが続いていたので)。
さらに公演期間中に発表された『エリザベート』でのルドルフ役がシングルキャストであることに、精神が追い詰められないか心配する声をいくつも見かけて「とてもわかる」となっていました。
伊波さんも『アンチイズム』という作品で自殺を志願するほど追い詰められる役を務めた際「公演期間中に今までなったことのない肌荒れをした」や「帰ってきたときの表情がいつもと違って心配した」とお父さまに言われるほど役に没入される方なので。
それだけ魂を削ったお芝居を観られることは演劇ファンとしては有難いのですが、役者さんのファンとしては胃が痛かったりもして…皆さん同じものを抱えながら応援していらっしゃるのだなと。
三浦さんの魂の篭ったルドルフ。頑張ってチケットを取って拝見したいです。そしていつか、三浦さんのトート閣下も拝見したいと夢見ています。

 


ロンガヴィル/入野自由さん

 ロンガヴィルにとってスパイダーマンとはどういった存在なのか。単純にパジャマ姿からタップダンスの衣装への早変わりを演出的にインパクトあるものにしたかった可能性もありますが。『♪Are You A Man?』のなかでデュメーンがロンガヴィルに「いつまでスパイダーマン読んでるつもりか」と語りかける歌詞もあるのでそれ以上の意味があると私は捉えました。

 ファーディナンド国王と三年間の厳しい誓約を守ると誓った際「俺の強靭な精神力にはご馳走だ。それに体も鍛えられるしな」とマッスルポーズを決めていることからロンガヴィルは普段から体を鍛えていることがうかがえます。このことから彼はただスパイダーマンが〝好き〟というだけでなく〝憧れ〟を抱き努力しいていることが分かります。

その努力がいつから始まったのかは
・キャサリンと出会う前。
・キャサリンと出会い彼女に見合う男になるため。
(『♪Longaville's Sonnet』にてロンガヴィルはキャサリンのことを「神々しい」と表現しているため、学生時代の彼にとってキャサリンは高嶺の花的存在だったのかもしれません)
・キャサリンと離れてしまってから。
(ロンガヴィルはキャサリンマリファナを使っていたことを知っていたようなリアクションがあるので、ひょっとしたら彼女と距離を置いてしまった理由も「自分では彼女の支えになれない…」といった自信の喪失や後悔があったのかもしれません。)
など、色々と可能性は考えられますが彼がキャサリンと離れてなお努力を続けていたことは事実です。

 ロンガヴィルがキャサリンと離れてなお続けてきた努力は、愛する人ともう一度向き合うという覚悟を持ったとき彼を本当のヒーローにしたのだと思います。
〝好き〟から〝憧れ〟へ。そしてその先へ。
「頼むから誓わないで」と言ったキャサリンの気持ちのなかには〝一人でも立ち直って見せるから待っていて〟という気持ちもあったのではないでしょうか。
そばにいなくても互いを思い、心に住まわせることで支え合える関係性。親愛なる隣人。
キャサリンにとってのヒーローは一年後。その屈託ない笑顔で彼女を力強く抱きしめてくれる、そう信じています。


/ワイルド系を目指しながら、ふとしたときに幼さが出てしまうロンガヴィル。とくにタップダンスシーンでの弾けるような笑顔に、キャサリンの過去についてあれこれ考え込んでしまっていた私は救われました。
また公演プログラムで「強気なキャサリンのことを好きなロンガヴィルはM気質があるのかな」と仰っていたように、『♪Longaville's Sonnet』でキャサリンを想う胸の痛みに「あっ♡あっ♡」とどこか気持ちよさそうにしているなと思っていたら兵庫千穐楽でとうとう「気持ちいぃ〜♡♡♡」と叫んだところでむちゃくちゃ笑わせていただきました 笑
なのにキャサリンと想いを通わせたあとの肩を抱く逞しさとのギャップですよ!入野さんの持つ少年性と表現力で醸し出すことのできるワイルドさは唯一無二のロンガヴィルだったと感じました。

 


キャサリン/伊波杏樹さん

 キャサリンは二面性が印象的な女性です。
物語の前半では唇の左端を上げ皮肉ったような笑みを浮かべていたかと思えば、後半ロンガヴィルから口づけを受けた手の甲を愛おしそうに見つめる穏やかな微笑み。
『♪Hey Boys-Reprise』での「電気つけてするの」という発言から性に奔放な女性かと思いきや、ロンガヴィルからの手の甲への口づけに初めて口づけを受けた少女のように体をふるりと震わせたり。

 キャサリンがどういった女性なのか紐解く鍵はやはり『♪The Tuba Song』での「マリファナやめたい!」という衝撃告白にあると思います。
彼女は過去の恋のことを「ラリってた」と表現。歌詞の流れから「どうかしていた」という意味合いかと思いきやまさかの衝撃告白。これもまた比喩的な表現なのかな?とも思いましたが、その衝撃告白時のロンガヴィルがデュメーンに対してマリファナを吸うジェスチャー付きで「彼女、実はそうなんだよ」とでも言うかのようなリアクションだったので、私は少なくともロンガヴィルと接点のあった学生時代にはマリファナに手を出していたと捉えました。

 ではキャサリンはなぜマリファナを使用するようになったのか?
東京公演観劇後の時点では言葉や態度の辛辣さに反し、仕草の端々に現れる所作の美しさから。キャサリンは礼儀作法の教育を受けたお嬢様であるが悪い男にひっかかりその影響でマリファナに手を出してしまったのかな?と予想しました。
その後、原作を読んでみるとキャサリンに薬物使用者という設定はなく。代わりに、色恋をきっかけに病んでしまった妹を亡くしている描写がありました。このことから妹を亡くした悲しみから「辛いことを忘れられる」などと甘い言葉に誘われてマリファナに手を出してしまったのかもしれません。
そしてロンガヴィルと出会いマリファナを断とうと努力してみたものの上手くいかず。彼と距離ができたことでいよいよ抜け出せなくなってしまったのかな?と。

 『♪Hey Boys-Reprise』での「電気つけてするの」というインパクトのある歌詞に引きずられて「食堂のトイレの個室で」も男女の営みのことだと東京公演初日からしばらく勘違いしていたのですが。よくよく歌詞を聴いてみると「食堂のトイレの個室で、電話すると」と続いており、全体として歌詞を捉えてみると。王女・キャサリン・マライアの三人は電話では相手に強がって平気なフリをしてみせたものの「彼とはただの友達」などと素直になれないまま距離ができてしまった過去が歌われていました。

 また、キャサリンは何かと女性を守るような動きがよく見られました。
・『♪The Tuba Song』をソングを披露するために乱入してきたコスタードたちの乗る車から王女をかばったり。
・フランス国王の訃報にショックでよろめく王女を支えようと一歩歩み寄ったり(実際に抱きとめたのはファーディナンドですが)。
・王女がピンポンダッシュしてしまい逃げ出す場面でぼんやりしているマライアに「マライアこっち!」と声をかけたり。
とくにマライアとはセットで一緒にいることが多いせいか姉のような振る舞いにも見え、ひょっとして亡くなった妹さんと重ねているのかな?とも思いました。
実際どうなのかは分かりませんが。伊波さんは基本的に原作を読んで役作りをされる方なので、そんな可能性もあると思っています。

 妹さんのこともあり恋愛について懐疑的だったキャサリンにとって、少し子供っぽい純粋さを持ったロンガヴィルは恋というものを信じてみようと思える出会いだったのかもしれません。しかし学生時代は互いを支え合うにはまだ幼く距離ができてしまったのではないでしょうか。

「頼むから誓わないで。また破られたときに困るから」
〝また〟ということは過去に破られた約束があるということ。それが具体的にどういったものなのかは分かりませんが、彼女にとって懐疑的なものであった〝恋〟というものそのものだったのかもしれません。
伊波さんのお芝居からは「また破られたときに」という台詞に少しおどけた含みを持たせることで〝あなたを許す〟というニュアンスを表現していたように感じました。それはロンガヴィルに対してだけでなく、〝恋に傷ついた過去そのものを許す〟ということだったのではないかと。
大人っぽいキャサリンが人を、そしてかつて裏切られた愛を許すことで〝自分に宿った愛を信じてみよう〟と本当の意味で成長した瞬間だと私は捉えました。

 約束に〝頼る〟のではなく、心に宿るロンガヴィルの愛があるからこそ彼女は今度こそマリファナと己の弱さを断てることでしょう。
そうして互いに自立した人間へと成長したそのとき二人はようやく恋人になれると信じています。

 

(2019/12/4追記)
やはり伊波さん演じるキャサリンはマライアに妹を重ねている部分はあったようです。

伊波杏樹のRadio Curtain Call』11月28日(木)配信分より
・キャサリンは妹を亡くしているので、妹の存在をマライアで少し満たしている部分はあった
・王女が一番最後の方で「ひとりぼっち」と歌うときに、妹を亡くした瞬間をフラッシュバックさせて毎回泣きそうになっていた
・基本的に原作を大事にしたい人なので、作品に寄り添って役作りなどはそういった勉強の仕方をするようにしている
・そんなところを妹の存在としては、すごく濃厚に頭の中に描いていつもキャサリンとして生きていた


・キャサリンは女子四人でいるけれどもフランス王女側
・伊波さんの作ったキャサリンはフランス王女の言ったことに対してすごく信頼をおいている
・フランス王女は破天荒なことをしてくれるので彼女といると楽しくて、彼女といると忘れられることがキャサリンにとってたくさんある
・キャサリンにとっての嫌なこと、面倒くさいこと、ストレスなどが王女といると少し緩和されるような安堵感があり、それはべっぴーさん(中別府葵さん)が演じてくれていたからこそ生まれたキャサリンの感情だった
・あの四人でといることはキャサリンが唯一ハッピーになれる場所でもあった

 

 


/伊波さんのお芝居については上記でほとんど触れてしまったのですが。ずっと応援している役者さんなので思いの丈を綴らせてください。
 2016年5月6日。ラブライブ!サンシャイン!!生放送の1コーナーでの演技を見て Aqoursのなかに凄い役者さんがいる!と気がつき。その人の夢がミュージカルだと知ってから三年半。その間も「私をきっかけに舞台に興味を持ってくれたら嬉しい」という言葉に演劇ファンとして感銘を受け。いつしか伊波さんがミュージカルの舞台に立つことは、私にとっても夢になっていました。

 そういった存在の方の夢の舞台。その第一報を知った時は職場の休憩室でひとり大号泣したのを覚えています。午後の仕事が大変でした 笑
 伊波さんは今回の舞台において見せ場こそ、そこまで多くはないものの。私は上記でも記したような、わずかな体の震えや一言に込めたニュアンス。台詞のない場面での表情の変化。そういった丁寧な演技の積み重ねで表現される、演じる人物をより深く息づかせてくれるような伊波さんのお芝居が大好きです。こと息遣いひとつに込めた声での表現は一級品だと思っています。

 私にとって観劇は、劇場の扉を開けて出て行くまでの夢の時間でした。それを伊波さんが観劇を終えてもずっと見続けられる夢にしてくださいました。
これからも伊波さんの役者としての夢「帝国劇場」と、応援してくれている皆さんとの夢「武道館」。この二つの夢を追い続けたいと思います。

 


マライア/樋口日奈さん

 男女の再会の場面で皆が戸惑いのリアクションを見せるなか、ただひとりかつての思い人との再会を純粋に喜ぶ姿を見るに。マライアは女性陣の中で唯一恋愛ごとで苦い思いをしたことのない女の子なのかもしれません。
それゆえにキャサリンはマライアの姉のように振る舞い、王女は「騙されちゃ駄目」と説いたのではないでしょうか。まるで各々が傷つき隠してしまったかつての純粋さを守るかのように。


/可愛い。とにかく可愛い。
屋敷にいるのがデュメーンだと分かった瞬間にマライアがとった行動はちょんちょんと胸元リボンを整え身だしなみに気遣うこと。そういった女の子らしい可愛さを嫌味なく演じられるのが本当に素晴らしくて可愛い。(極度に語彙力が低下するほど本当に可愛かったのです。女子が守りたくなる女子を体現するのって本当に凄いことだと思うのです。)
 また、マライアとキャサリンが仮面を入れ替えた際のマライアのフリをするキャサリンの演技が内股にして小首を傾げるというとにかく可愛らしさを誇張したものだったので、キャサリンにはマライアがこう見えているという解釈も面白かったですし。キャサリンの真似をしようと大人っぽい仕草に挑戦するマライアが「こう?」とキャサリンに確認する姿が逆に可愛らしくてにこにこしてしまいました。
インタビュー動画によると「難しく考えていない」とのことなので本当に可愛らしい方なんだなとほっこり癒されました。

 


デュメーン/渡辺大輔さん

 寝袋がないとアピールするボイエットへのしーっとしてからのウィンク。跪いてからの投げキスなど。他の登場人物より恋愛慣れしている仕草が見られるデュメーン。
長身でハンサムな彼は学生時代から女性に困ることはなかったのでしょう。
だからこそ「デュメーンは上手いのよ〜。私に奢らせるのが♪」というマライアの台詞からも分かるように、奢らせるばかりでも笑顔を絶やすことのないマライアの純粋さは彼にとって眩しすぎるものであり。学生時代の彼は逆にピュアなマライアに手を出すことができなかったのではないでしょうか。
 はてさて一年後。カップルたちのなかで一番スイートな新婚生活を送りそうな二人ですが、マライアを大切にしないとバックについているお姉さんたちが怖そうですね 笑


/『♪Dumaine's Poem』でのロングトーンが凄いのはもちろんなのですが、やはり印象的なのがバンドメンバーさんとの日替わり15世紀風曲でのやり取り。
男子会のレポートによるとあの場面は毎回打ち合わせなしとのことで。渡辺さんの引き出しが試されると同時に、どんな無茶振りにも対応する渡辺さんの懐の広さを感じました。
また兵庫公演千穐楽ではバンドメンバーさんたちのことを全員ボーダーの服を着ていることから『ボーダーズ』と名付け「ボーダーズもう立っていいよ」と促し、いつも素敵なサウンドで舞台を盛り上げてくださっているバンドメンバーさんに改めて拍手を贈るチャンスをくださった優しさに心から感謝いたしました

福岡公演千穐楽のデュメーンのロングトーンの前に最前席あたりの人にアドリブで何かを言って。ロングトーンの後にいつもは「死ぬ…」と言って倒れるところを「ふふっ、笑ったね〜」とにこっと笑ってから倒れたのが最高に素敵でした。そのお客さんが笑っていなかったのかな?と思うのですが、自分の持つ技術で人を笑顔にするのって本当に素敵ですよね!

 

 


ボイエット/一色洋平さん

 女性的口調で話すボイエットですが、ロザラインに手違いでアーマードからの手紙が届けられ、誰から誰への手紙だったのかというやり取りの際「私ならもっと下の方を狙うけど、私のアナコンダで」という少々下品な冗談を言ったりと男性的な部分も見受けられます。
ではなぜ彼は女性的口調なのか。単純に彼にとってそれが自然体であるということもあるのかもしれませんが。私は王女を見守る母親的意味合いもあるのかな?と感じました。
王女の口から父親のことしか語られないこともありますが、そう強く感じるようになったきっかけがこちら。
 『♪Labour of Love』で男性たちが仮面を付けた女性たちを各々の想い人だと勘違いしたまま愛を歌う場面。このシーンでボイエットは泣きそうに眉を寄せとても悲しそうな表情をしているのです。
 男性たちの真剣な想いを仮面で欺き、その愛を素直に受け止められない王女たちのことを悲しく思っていたのでしょう。
まるで母のように。
 そして車に乗ったコスタードたちに邪魔されたものの『♪I Don't Need Love』で国王と心を通わせあった王女の最後の背中を押すのもボイエットです。
フランス国王の訃報に王女として毅然とした態度で別れを告げた後に、そっと迎え入れ涙を拭ってあげたのもボイエットでした。

 『♪Brabant Song,Pt.1』で彼は
「なぜ女と男はすれ違うのか。ただ素直に向き合えばいいのに。余計なお節介。私はただの召使い」
と歌っていましたが、きっとそれ以上の思いで彼女たちの恋を見守っていた。私はそのように感じました。


/東宝演劇部のツイッターでインタビューだけでなく編集まで手掛けていらした「動画の人」こと一色洋平さん。
その多才さもさることながら、稽古期間から稽古場の様子や原作についてツイートしてくださったり。台風で公演が中止になった際も、チケットの払い戻しや振替公演にいたるまでとても丁寧に告知していらっしゃる姿勢が舞台人としてとても好感の持てるものでした。

役者としてももちろん。
・王女がファーディナンドの屋敷に訪問するも「やっぱり無理!」と逃げ出してしまったシーンで見せてくれた、怪我をしないか心配になるほどのダイナミックジャンプ。
・女性たちを屋敷に泊めることはできないと寝袋を投げ渡されたものの数が4つしかなかった場面での「あたしは?あたしの寝袋は?」
・フランス王女がファーディナンド国王の屋敷にライフルをぶっ放した場面での「いやぁぁぁ〜〜〜!!!やめてぇぇぇ〜〜〜!戦争になるっ!戦争になるぅぅぅっ!!!」
など。登場する場面できっちり笑いをとっていく姿が職人だなと感じておりました。お気に入りの場面です。

 

 

【日替わりネタ】

アーマードの名前を間違えるダルシリーズ
10/1〜11/1まで「ドン・アーモンド・チョコレートさん」だったと思います。
11/3
「ドン・アーマード・マリオカートさん」
この日までアドリブのないシーンだったため客席から拍手が起きるほどの大ウケ!これは気持ちいいだろうなぁと思っていたら、その日ダル役の加藤潤一さんご自身ツイッターで「あのシーンで拍手を頂けると思っていませんで、1人嬉しさを噛み締めてました 笑」とのことでなんだかこちらまで嬉しくなりました。
11/4
「ドン・アーマード・クックパッドさん」
11/10
「チン、あ。ドン・アーマード・マルダシーノさん」


『♪Jaquenetta』でのアーマードによる♪ジャ ジャ ジャ のリズム
何がどの日だったか忘れてしまったのですが『ジョーズのテーマ』『葉加瀬太郎情熱大陸のテーマ』『ネェーネェーと猫の鳴き声』などがありました。
アーマード役の大山さんも面白くて楽しませていただいたのですが、あれを目の前で繰り広げられて吹き出さないジャケネッタ役の田村さんも凄いなと尊敬してしまいました 笑 そのくらい面白かったです。


アーマード「お前を逃してやろう」
コスタード「俺を脱がす〜?そっちの筋の方でしたか。でも俺どっちもいけるんで」
に続くコスタードの返し。
10/1
「いいですよ!俺左の乳首の方が感じるんで」
10/2
「でも俺どちらかというと小柄な人がタイプなんでごめんなさい」
11/1
「ほら先にシャワー浴びて来いよ」
11/3
「(アーマードの方を向いて)俺こっち?(アーマードにお尻を向けて)それともこっち?」
11/4
「(床に四つ這いになり)俺ネコね!」
11/10
「俺Mなんで」


デュメーンの「誰だ!」からの国王の動物シリーズ
10/1
初日は「誰だ!」のやり取りはなかったような気がします。

10/2
「ニャー」
「なんだ猫か。あははは可愛いなぁ」
11/1
「ニャー」
11/3
「ウホウホ」
「!?ここはジャングルか?」
11/4
「パオーン」
「象?国王飼ってそうだもんな」
11/10
「モーォ」
「もーぉ…あ、牛ね。モーォって低いから。モーォ↑じゃないんだ」
茂みに隠れている陛下が堪えきれず顔を隠して笑っていらっしゃるのが可愛らしかったです。


デュメーンの15世紀風の曲
10/1
日替わりネタになるとは思わず忘れてしまいました。

10/2
マイケルジャクソンのポゥッ!!を披露。
「違うでしょ昨日から調子に乗ってるから!」

11/1
キダ・タローさんの『プロポーズ大作戦』のテーマ。リズムに乗りバンドメンバーさんの自由にさせるデュメーンさん。
「え?なに?マイク使っていいよ」
「浪速のモーツァルト
「知らないよ!」

11/3
吉本新喜劇のテーマ。
さすが関西。手拍子の揃い方一体感が観劇したなかで一番の瞬間で感動すら覚えました。

11/4
国王のパオーンに乗っかって童謡『ゾウさん』。
腕を揺らしてゾウの鼻を表現しながら
♪そーよ母さんもなーがいのよ〜
「考えてなかったの?国王に乗っかったの?」
茂みの国王を指差すバンドさん。
「そこ誰もいないから!ボーダーズもう立っていいよ!」
バンドメンバーの皆さんを立たせて拍手を贈るチャンスをくれる優しいデュメーンさんでした。

11/10
福岡出身の武田鉄矢さんの『贈る言葉
「♪人には優しくできるのだからぁ〜〜〜ばか!皆さんに?贈る言葉?」
バンドメンバーさんにマイクを向けるデュメーンさん。
「正しいという字は一度立ち止まると書きます。皆さんは一度立ち止まって考えられる人になってください」
「はーい、ってばか!もう!最終日まで本当に!」
ピアノの伴奏が始まる。
「勝手に始めるんじゃないよ!」


日替わりネタではないのですが印象に残ったシーン
兵庫公演前楽。木村花代さんが『Cats』の衣装で出てきた際(木村さんは劇団四季所属時代本当にCatsに出演されていた)、アーマードが指差しながら「ほ、ほんもの!?本物!!」と繰り返してミュージカルファンの気持ちを代弁してくれたおかげで拍手を送りやすくなったこと。(『コーラスライン』のオマージュもそうですが、東京公演初日は「本物がオマージュするってどういうことですか!」と心の中で大笑いさせていただきました。チケット代以上の価値のある贅沢すぎる舞台でした)

福岡千穐楽。モスがコスタードを呼ぶシーン「おーいレオター…コスタード!」

 

 


【兵庫公演初日スペシャルカーテンコールご挨拶】

(メモを取っているわけではないので雰囲気だけでも伝わればと。)


ボイエット役/一色洋平さん
東宝演劇部さんのツイッターの方でキャストの皆さんのインタビュー動画を上げさせていただいておりまして。一色さんとかボイエットではなく〝動画の人〟と呼ばれるようになりました。本業の役者の方も頑張りたいと思います」


モス役/石川新太さん
「モスは〝猫好き〟でして。今日のカーテンコールで何を話そうか昨日ホテルのベッドで〝寝転んで〟考えていたのですが。関西の方は笑いに厳しいので〝寝込み〟そうでした(客席の笑い声)笑っていただけて良かったです!」


ダル役/加藤潤一さん
「東京千穐楽の後に演出の上田先生に駄目出しを聞きに言ったところ。公演のことではなく千穐楽での挨拶の駄目出しをいただきました。なので笑いが取れるようラヴズレイバーズ〝ポ〟ストこの後も頑張ります」


コスタード役/遠山裕介さん
「みんな大好き?」
「「「コスタード!!!」」」
「ありがとぉぉぉ!」
とてもシンプルなのにむちゃくちゃ盛り上がった挨拶でした 笑
さすがみんな大好きコスタード!


ナサニエル役/ひのあらたさん
加藤潤一さんの「ラヴズレイバーズ〝ポ〟スト」の天丼で笑いを取るひのさんでした。


ホロファニーズ役/木村花代さん
大阪府守口市出身。父は兵庫の出身なのでちょっとだけ、いや半分か。兵庫の血も入っております。
私は劇団四季に入る前一年間松下電工ではんだ付けのアルバイトをしていたのでコツコツとやる作業は得意です。小さなことからコツコツと大きなことを成し遂げたいと思います!」


ジャケネッタ役/田村芽実さん
「私ごとではありますが10月30日に誕生日を迎えまして。21歳になって初舞台がこの!この!この!(ピョンピョン跳ねている姿がとにかく可愛い)この舞台に立てて幸せです」


アーマード役/大山真志さん
「(入浴シーンがあるので)風邪をひかないように頑張ります!」


キャサリン役/伊波杏樹さん
入野さんが先に出るそぶりを見せて「違うよ私だよ!」とひと笑い起こすコンビ。
「この個性豊か登場人物に会いたくなったり笑いたくなったらまたぜひ劇場にお越しください」
手を振りながら「二階席まで…二階席?見えるよね?」と二階席まで気遣いぽやぽやボイスで笑いを誘う伊波さんでした。


ロンガヴィル役/入野自由さん
「リハでアカデミアの場面を終えたらスタッフさんが一人だけ(パチパチパチ…と寂しい拍手をしながら)拍手をしてくださいまして。リハなので当たり前なんですけど不安もあったんですけども。たくさんのお客様の拍手に安心いたしました。お客様あっての舞台だと改めて感じました。ありがとうございました」


マライア役/樋口日奈さん
「マライア役樋口日奈です!今日は楽しかったです!」ととても可愛らしくシンプルなご挨拶。


デュメーン役/渡辺大輔さん
マライア風に可愛らしく「デュメーン役渡辺大輔です!今日は楽しかったです!」と天丼するコンビの微笑ましさに癒されました。


フランス王女役/中別府葵さん
「関西の皆さんは笑いに厳しいので、私の渾身の『ピザハットよ!』が受けて安心しました。明日からもこの自信をもって頑張ります!」


ファーディナンド役/三浦涼介さん
三浦さん「兵庫公演は楽屋が一人なので寂しくて…大ちゃんのことをいつも思ってます」
渡辺さん「ここで言うことじゃないでしょ!」
客席Fooo!!!と大盛り上がりでした。


ロザライン役/沙央くらまさん
「2月に宝塚を退団しまして。タクシーで降りるときに「久しぶりの西宮北口か(足を開いて男役ボイス)」となったんですけども。舞台の上では相手役さん(村井さん)もいるので女性として演じることができました。ありがとうございます」


ビローン役/村井良大さん
「自由くんも言っていましたように、お客様あっての舞台ですので。よろしければ親友、ご家族、甥っ子、姪っ子たくさんの方を連れてまたぜひ劇場にお越しください」


とてもふんわりとあたたかな雰囲気のスペシャルカーテンコールでした。

 

 

【コメディの力】

 東京公演の初日は友人と観劇したのですが、友人にとって初めて観劇したミュージカルがこの作品で良かったなと心から思いました。
というのも、学生時代に泊まりに来た友人たちに当時私がもっとも美しいと思っていた宝塚作品を見せたところ…三人中ニ人が爆睡したという苦い経験がありまして。
今にして思えば「青年将校と人妻の愛」とか初手で重すぎると分かるのですが、当時の私にとっては宝塚の魅力=美しさが一番伝わると思い込んでいたわけです。
しかし結果は見事爆睡。何がいけなかったのか尋ねてみたところ
・話がよく分からない。
・衣装がコロコロ変わって名前と顔が一致しない。
・馴染みのない外国人の名前が覚えられない。
というものでした。なるほど。名前が覚えられなければ関係性の把握もできないわけです。というわけで次に私が見せたのは日本物のコメディ作品。これが大ウケしました。
「え!宝塚でちょんまげ付けるの!?」
「ええっ!なんかハゲたおじさん出てきたんだけど!宝塚のイメージと全然違う!」
イメージとのギャップが大いにウケたわけです。確かに宝塚の美しさは魅力の一つです。しかし私が気づくべきは、それは魅力の一つにすぎず、数多くある宝塚の魅力を知ってもらうには〝まず興味を持ってもらうこと〟でした。

 というわけで、東京公演の初日。
「どこに注目して観たらいい?」という友人の問いに対する私のアドバイスは三つ。
・あらすじは読んでおいた方がいい
・ミュージカルにおいて歌は台詞だからメロディーとして聴いたら分からなくなる
・名前は覚えられなくても今回はたぶんほとんど衣装は変わらないから服の色で覚えたらいい

 結果。とても楽しんでもらえただけでなく「最後にビローンとロザラインが部屋に入っていったのは一年後の二人が結ばれたってことかな?」と素敵な解釈まで披露してくれました!友よ、ありがとう。観劇後に語り合える。これほど嬉しいことはない。


 また、福岡公演千穐楽は母と一緒に観劇させていただきました。
私にとって母は子供の頃から舞台の面白さを教えてくれた大切な人なので、大人になった今。応援してる役者さんの立つ舞台のチケットをプレゼントできたことは特別な思いがありました。
母は病気で片目がもうほとんど見えない状態で、そのせいか近頃は周囲への迷惑を気にしてあまり遠出をしなくなってしまいました。しかし演劇だけはどんなに遠方でも興味を示してくれるのです。
 コスタードの言うところのお上品に拍手する舞台ばかり観てきた母にとって、拍手だけでなくヒューヒューと声出しOKの舞台は新鮮だったらしく。また福岡出身の武田鉄矢さんの『贈る言葉』のご当地ネタには声を出して大笑いしていました。そんな楽しそうな母の姿を見ることができて。目だけでなく耳でも楽しめる歌の力、音楽の力、生のお芝居の力に改めて感謝いたしました。
 私も母ほど進行はしていないものの同じ病いなので、母が笑っている。その姿は私にとって希望の光そのものでした。

 キャストの皆様。関係者の皆様。楽しく素敵な時間を本当にありがとうございました。