エトワールの木漏れ日

舞台、ライブ、イベントなどの備忘録

音楽劇『銀河鉄道999 さよならメーテル~僕の永遠』観劇備忘録

 

 今回の舞台はミュージカル出演という夢を掴んだ伊波さんにとって、とても意味深く、そして最高の船出となる公演となりました。

 

 これまでも同業の役者さんから「台詞の明瞭さ」を評価していただいていた伊波さんですが、今回の舞台は音楽劇ということで「歌が上手い」「歌声が聴き取りやすい」という評価を多く拝見しました。
 ミュージカルにおいて「歌=台詞」です。それは心情の吐露であったり、状況説明であったり。それが聴き取りにくいと次の場面で「ん?どうしてこうなったの?」と展開についていけなくなってしまうこともあります。(ミュージカルを苦手とする人はそういった部分もあるのかもしれません)
 伊波さんの歌声は歌詞も聴き取りやすく、さらに語りかけるような表現力で、こちらの心情を揺さぶるものでした。


 また中川晃教さんとのデュエットでは、美しいハーモニーのなかで鉄郎とメーテルのこれまでの旅の物語を紡いでいました。
 これは私が感じたことなので、歌声に何を感じ、何を見出すかは人それぞれです。しかしそこには前提として観客を陶酔させるだけの歌唱力が必要です。歌唱力に明らかな差があれば、観客はあっという間に現実に引き戻されてしまいます。
 伊波さんは「ミュージカル界でも歌唱力を高く評価されている中川晃教さんと見事なハーモニーを生み出した」この事実をもって自身の歌唱力を証明してみせたのです。


 さらに言えば、ミュージカル界で活躍する方々は当然歌が上手いです。そして、その中でいかに個性と魅力を発揮できるか。第一線で活躍する方たちはそういった人たちだと私は感じています。中川晃教さんの突き抜けるような圧巻のハイトーンボイスがそれです。そこに宿るのは若さ溢れるエネルギーと鉄朗の熱い魂。そして36歳の中川さんが16歳の鉄郎を演じる説得力でした。

 対して相手役のメーテルを演じた伊波さんの魅力といえば、やはりその表現力。これまでその魅力をお芝居で遺憾なく発揮してきた伊波さん。(今回で言えばプロメシュームの最期。倒れる母を抱き右手でその腕を。左手で手を握るメーテル。姉エメラルダスの言葉に耳を傾けながらその指にそっと力を込める。その姿がまるで温かい頃の〝母〟を抱いているようで。伊波さんのそういった繊細なお芝居が好きだなと改めて実感いたしました。)

 それは歌唱場面であっても、語りかけるような歌声と深い表情のお芝居でもって発揮されました。
 舞台上でメーテルが感情の起伏を露わにするような場面はありません。その中で伊波さんは鉄朗と旅を続けたことで「迷い」「哀しみ」の色が濃くなっていく過程を丁寧に演じることで、メーテルの持つ繊細な感情のグラデーションを豊かに描き出していました。
 そして、その最も大きな感情の高まりが表現されていたのが〝鉄朗とメーテルのデュエット〟だと私は感じました。

 鉄郎の真っ直ぐな瞳に俯くメーテルは、彼の純粋にメーテルを想う歌声に瞳を潤ませます。
 鉄郎の背を見つめ紡がれるメーテルの歌声は、揺れる心そのものでした。
 やがて鉄郎と言霊を重ねることでついにメーテルは己のこれまでの旅路に意志を宿すのです。
 それはまさにラジオ(RCC)で伊波さんが語った「鉄郎にどれだけ寄り添って、鉄郎と旅することの意味をどれだけ見出すか」そのものの情景でした。
 鉄郎の熱い魂の宿った歌声に共鳴し震え産声をあげるように揺れるメーテルの心がさざ波のように伝わり、こちらもぐっと涙を堪えずにはいられませんでした。

 また、あれだけ心に訴えかける歌い方をしているのに歌詞が聴き取りやすいことに感心しました。ご本人曰く歌の場面が来るたびに緊張していらっしゃったようですが、演技中の伊波さんからはまったくそんなものは感じられませんでした。やはりこの方はお芝居の中で本領を発揮される方だなと思いました。

 

 

 今回カーテンコール等で伊波さんの素の声を初めて聞いた人たちからは、落ち着いた大人の女性のメーテルを演じていた時との声のギャップに「さすが声優さん!」と驚いたという感想をよく見かけました。
 そのギャップは興味を引く、強く印象付けるという意味で武器であり。役者と声優、そのどちらも誠実に極めてきた伊波さんだからこその表現の幅でもあります。

 伊波さんが役を演じる時。伊波杏樹本人はもちろんのこと、これまで演じてきた役がちらつくことは一切ありません。そこにいるのは「○○という登場人物」そのものなのです。
 それはお芝居にとどまらず歌唱場面でもそうでした。伊波さんが〝役〟として歌を歌うとき伊波杏樹としての〝個〟は消えます。
 高海千歌役であれば高海千歌の歌声。
 メーテルであればメーテルの歌声。
 「声優」であればそれは当然求められることです。その主体はキャラクターなのですから。
 では舞台ではどうでしょう。演劇作品で「この登場人物はこういう声」と明確なイメージを求められることはあまりありません。(2.5次元ミュージカルなど明確な役のイメージがある舞台はまた別ですが。)歌声に乗るのは役者の〝個性〟です。〝個〟の消える伊波さんの場合その〝個性〟が単一ではない。そこが面白いのです。

 


 今回、観劇を趣味としている友人が初めて伊波さんの演技を観たとのことだったので、その感想を聞いてみました。

メーテルの演技を見たら、きっと他の舞台作品でも、変な癖がなく役を演じる方なのかな?と思ったのです。
それって、観る側にとっては好きな役者さんの色々な姿を見ることができて楽しいことだと思うのですよ!
だから、とむじんさんは伊波さんを追いかけているのかな?もっとたくさんの人に伊波さんの色々な面を知ってほしいのかな?と思いました。」

 友よ。まさにそれ!
 これまではお芝居でしかそれを味わうことができなかったのですが、ミュージカル出演という夢を掴んだ今、これからは歌でもそれを味わえる!そう思うととても楽しみでもあり。なにより、そんな役者・伊波杏樹さんをもっともっと多くの人に知ってもらいたいと思うのです。

 


 伊波さんは実に謙虚で、そして冷静な方です。以前にラジオで「自分の代わりはいくらでもいる。どんどん若い子が出てきている」というようなことを仰っていたり。最新のたうんRadio(第28回)でも23歳という年齢から下からの追い上げを感じていらっしゃったり。自分の置かれた状況に焦りを感じつつも、とても冷静に捉えている人だなと感じておりました。
 私はそういった伊波さんの「謙虚さ」が、役者としても人間としても〝のびしろ〟や〝原動力〟に繋がっていらっしゃるのではないかと思います。伊波さんがその謙虚さを持ち続けるかぎり、伊波さんの成長は止まることはない。私はそんな風に思うのです。


 また、伊波さんが以前口にした「私はいい。キャラクターが輝いていたらそれでいい」という「謙虚さ」は〝役への誠実さ〟でもあります。
 忙しいなか、原作とアニメすべてに目を通し耳で感じ、メーテルへの理解を深めた勉強熱心さ。
 一般的なメーテルのイメージといえば冷静でミステリアスな女性。伊波さん自身そういったイメージをお持ちだったようですが、実際に原作やアニメを見たことで「メーテルは戦いもするし、とても可愛い面もある」と、より深くメーテルという人物を理解されたことをご自身のラジオでお話ししていらっしゃいました。伊波さんの演じたメーテルの美しさの中に、ふと顔を出す可愛らしさはそこからきていたのでしょう。
 それは「勉強熱心」というよりも「一人の存在として尊重している」と言った方がしっくりくるかもしれません。その人物を誰よりも愛し、個人として誠実に向き合っているからこそ現れる深い表現力なのではないでしょうか。
 私はそういう「役者・伊波杏樹」をもっと多くの人に知ってもらいたい。さらにいえば「役者・伊波杏樹」を〝きっかけ〟に、「伊波杏樹」という人間性を知ってもらいたい。それで伊波さんを応援してくれる人がもっともっと増えたなら、それはとても素敵なことだと思うのです。

 


 伊波さんは単独イベント『Super-pouvoir』にて、こう話してくださいました。
「生きてたら色んなことあると思うけど。またこうして楽しい時間を過ごせる機会を作れるように私も頑張るから」と。
「自分がみんなに支えられたから、自分もみんなを支えたい」と。
 私はこれらの言葉を聞いたとき、伊波さんはファンの人たちを〝ひとりひとりの人間として〟大切に想ってくださっていると感じました。
 ファンである前にひとりの人間であること。その個々の私生活のなかでの励みの〝ひとつ〟に〝伊波杏樹の活動(舞台、イベント等)〟がなれればいいと思ってくださっている。そういう、優しくて素敵な人だということも知ってもらいたいのです。

 

 今回の公演期間中、伊波さんのメーテルに対するお褒めの言葉をたくさん目と耳にしました。
 中でも鉄郎役の中川晃教さん。エメラルダス役の凰稀かなめさん。ハーロック役の平方元基さん。ミュージカル界で活躍する錚々たる方々のファンの方に褒めていただけたことが本当に嬉しかった。
 『目も耳も肥えたミュージカルのファンの方々を満足させた』
 それはミュージカル出演という夢を掴んだ伊波さんにとって大きな意味となりました。ミュージカルファンの方々のなかに「杏樹ちゃんなら安心」「杏樹ちゃんならまた観に行こう」そういった印象を築き、さらに夢の先へと進む道を拓いたのですから。

 

 

伊波杏樹にとって役者とは、人生です」

 『たうんRadio』の公開録音にて、そう語った伊波さんだから。ミュージカル出演はきっと新たな夢への入口。
 その夢はもっと別の形かもしれないし。いつか伊波さんがミュージカルの舞台に立つ光景が当たり前になる日が来るかもしれない。だからこそ……
・伊波さんがファン以外の人から褒められたこと。
・大きな劇場でInamin Townの会員を募集していたこと。
・伊波さんの演技を見て会員になってくれた人がいること。
 ひとつひとつの感動を忘れずに大切にしたいと思いました。それは決して当たり前のことではないから。
 伊波さんがたくさんの努力をして、悔しい思いをして、ようやく掴んだ夢の先。
 ミュージカルに限らず、色んな世界へと連れて行ってくれる伊波さんが進み続けるかぎり。これからも応援しています!